フィンランドのデザイン
北欧家具に関しては、ウェグナー、ヤコブセンといった2大巨匠を排出したデンマークが秀でていますが、フィンランドやスウェーデンにも優れたデザインの家具があります。まず、フィンランドでは、なんといっても世界的な建築家であるアルヴァ・アアルトの名を挙げることができるでしょう。どちらかというと家具デザインの印象が強いアアルトですが、モダニズムの建築家として1920年代から1976年に没するまで、数々の名建築を残した巨匠。1930年代にはCIAM(近代建築国際会議)の終身会員に選ばれ、ワルター・グロピウス、ル・コルビュジエらとも交流があり、パリ国際博覧会フィンランド館(1937年)、ニューヨーク国際博覧会フィンランド館(1939年)などの代表作があります。森林の多い北欧・フィンランドならではの木材を使った建築が多いのが特徴。第二次世界大戦後はアメリカの建築家からの招きで、1946年から1948年までマサチューセッツ工科大学客員教授を務め、MIT寄宿舎、ベーカーハウスの設計を行っています。アアルトは北欧を代表する建築家といってもよいでしょう。
アアルトのデザインした家具は合板を多用したものが知られています。アアルトの家具は、現在でもアルテック社が製作・販売しています。アルテック社はアアルトの事務所の所員の紹介で知り合った建築作品の施主の夫妻と、アアルトの妻などと共に1935年に共同設立されました。アアルトは、なんとテキスタイルもデザインしており、その幾何学的な柄でカラフルな「SIENA」と呼ばれるパターンは、最近の北欧ブームの中で再び注目をあびています。また、アアルトと妻アイノがデザインしたガラス食器は、イッタラ社が製作しています。北欧デザインに詳しい人はご存知の方も多いと思います。
アルテック社カタログより。上の有名なスツールは鮮やかなカラーリングのものも用意されています。中央右のカンチレバーチェアは「バイミオ」と呼ばれるバーチ材の合板のフレームと白い成形合板で作られたアアルトの家具の中で今でも特に人気が高い椅子。下のカラフルな北欧的なファブリックにも注目!
スウェーデンの家具
今、日本ではスウェーデン家具といえばIKEAというイメージが強いですが、伝統的にモダンなスカンジナビアンデザインの家具を作ってきた国。そのなかで、まず、紹介したいのが、エリック・グンナール・アスプルンドです。アスプルンドは1885年ストックホルムに生まれ、20世紀初頭の北欧インテリアデザインを牽引したデザイナーです。中でも「ヨーテボリ,1」と呼ばれる椅子は、1937年にデザインされたもの。その未来的なフォルムからは、とても80年ほど前にデザインされたものとは思えません。この椅子は、北欧を代表するウェグナーのような木材感や手作り感がないためイタリアモダン家具と勘違いしている人も多いようです。イタリアの家具メーカーのカッシーナが販売しているせいもありますが……。スウェーデンが誇る椅子のひとつです。次に、スウェーデンのデザイナーで、日本とかかわりの深い人物を紹介しましょう。ブルーノ・マットソンです。世界的に知られる北欧の家具デザイナーで人間工学の研究家としても高名なマットソンですが、なんと日本人向けの椅子を作っていたのです。メーカーは日本の誇る家具メーカー天童木工。親日家だったマットソンは、来日した際に日本の和室の畳に感心し、その畳を傷つけないようにソリ状の脚をつけて畳床を守るデザインにしました。この「ハイバックチェアMA-562」という安楽椅子は日本の部屋にもしっくりとなじむデザインとなっています。
スウェーデンデザインでありながら、山形県に本拠を持つ成形合板を得意とする天童木工の高い技術力によって製作された椅子。天童木工は柳宗理のバタフライスツールや磯崎新のモンローチェアを製造したことでも知られています