一次避難所の役割
以前からその言葉はあったものの、東日本大震災をきっかけに認知度が高くなった言葉に「避難所」があります。これは災害などにより自宅に居ては危険、もしくは不安な方々を対象にした一時的な避難施設であり、自治体では何かあった時のために「○○地区は○○中学校の体育館」のように、あらかじめ定めているものです。そして、いざという時には自治体職員がそこに駆けつけ、鍵を開け、必要な物資を用意し、管理することも行われています。ただ、ひと口に避難所といっても、いくつかの種類があり、対象となる人や必要なスタッフ、その対応も違ってくることがあります。ここではまず、災害が起きたら最初に開設する一次避難所についてご説明しましょう。
最低限の生活をする場所
公共の体育館などが一次避難所として利用される
保健師の役割も、最初は人の把握と体調不良者のチェック、医療を必要とする人への対応で手いっぱいになるはずです。
長期化は想定していない
一次避難所はあくまで一時しのぎの場所ですから、多くの場合、開設した翌日から自宅に戻れる人は出ていきます。管理者である自治体も、あくまで緊急避難場所として開設した施設なので、自宅に戻ることができない人には足りないものを提供したり、保健師は避難所内の生活が健康的になるよう努力もしますが、あえて引き止めることはしないのが基本です。これは何日経過しても同じで、できるだけ早くここ(一次避難所)から自立し、元通りの生活に戻ってもらうことを目指した対応を(自治体も保健師も)心がけます。いや、もっと正確にいうのなら、心がけなければならないのです。
なぜかというと、一次避難所に長く居れば居るほど、自立しようという気力が落ちてくるからです。最初は嫌でたまらなかった集団生活に馴染んでしまい、かえって自立して出て行くことに不安を覚えてしまう人。あるいは、何もしなくとも食事や寝る場所が提供されることに慣れてしまい、初日はおにぎりひとつで満足していたのに、1週間経つと食事内容に文句を言い出す人など、次第に我が強くなってしまい、別のトラブルに発展することがあるからです。
マスコミではほとんど取り上げられていませんが、東日本大震災で長期化した一次避難所ではよくあった話です。もちろん、これは避難者だけの責任ではありません。なかには自治体上層部が避難者に対して囲い込みともいえるような至れりつくせりの対応を続け、その結果、多くの避難者の自立が遅れに遅れたところもありました。
自立を促す共通認識が大切
災害弱者に自立を促すことは容易ではありません。捉え方によっては、弱いものいじめにも見えるからです。誰だって目の前で困っている人がいれば助けてあげたくなります。問題は、それが相手のためになるかどうかです。保健師という仕事をこれから選ぶ皆さん、そしてすでに選んだ皆さんには、このことをよく覚えておいて欲しいと思います。
また、仮に何か大きな災害が起きた時、前出の話のように自治体上層部が間違った対応に走ることもあります。そうならないよう、常日頃から避難所対応などの基本方針を自治体内で確認しあっておくことも大切です。