胃腸の病気/潰瘍性大腸炎・クローン病

安倍総理も悩まされた潰瘍性大腸炎の症状・治療法

潰瘍性大腸炎は、原因不明の炎症により、大腸粘膜にびらん(ただれ)や潰瘍をきたす慢性の疾患です。安倍総理が悩まされていたことで耳にされたことがある人も多いと思います。潰瘍性大腸炎の患者は、2013年度で16万人を超えており、近年著しく増加傾向にあります。潰瘍性大腸炎の診断、治療法、食事のポイント等について解説します。

今村 甲彦

執筆者:今村 甲彦

医師 / 胃腸科・内科の病気ガイド

潰瘍性大腸炎とは

診察する男性医師

潰瘍性大腸炎の明確な原因は未だにわかっていません

潰瘍性大腸炎とは、大腸の粘膜がただれて下痢や出血、腹痛をきたす原因不明の病気です。潰瘍性大腸炎とクローン病を包括して炎症性腸疾患と呼びます。炎症の部位は、直腸から連続的に口側に広がり、大腸全体まで及ぶこともあります。症状が良くなる「寛解」と、悪くなる「再燃」を繰り返すことが特徴です。

どの年齢層でも発病する可能性がありますが、10代後半~30代前半に好発します。潰瘍性大腸炎の患者数は1970年以降急激に増加傾向にあり、2017年度末の潰瘍性大腸炎の医療受給者証および登録者証交付件数は16万人以上と報告されています(難病情報センター参照)。

潰瘍性大腸炎の原因

潰瘍性大腸炎の原因はまだわかっていません。しかし、最近の研究では、「遺伝的な要因」、「食べ物や腸内細菌、化学薬品などの環境因子」、「免疫の異常」の3つが重なり合って発病すると考えられています。食生活の欧米化もこの病気が増加している要因のひとつとされています。

潰瘍性大腸炎の症状・診断基準

潰瘍性大腸炎では、血便や軟便・下痢、腹痛、発熱などの症状を認めます。このような症状が続いたり繰り返したりする場合は潰瘍性大腸炎が疑われます。下痢がひどい場合、1日に20回以上トイレにかけこむこともあります。

感染性腸炎など他の疾患でも似たような症状がみられることがあるため鑑別診断が必要です。内視鏡検査と組織検査で潰瘍性大腸炎に特徴的な所見があるかを確認します。注腸X線検査を行うこともあります。血液検査なども含めて総合的に診断します。

潰瘍性大腸炎の治療……薬・手術

現在のところ、この病気を完治させる治療法はありません。しかし、適切な治療によって病気をコントロールすることは可能です。活動期には病変範囲と重症度を把握し、それに応じた治療法を選択して速やかな寛解導入を図ります。

1)潰瘍性大腸炎の内科的治療法・主な薬


■5-アミノサリチル酸(ASA)製剤
潰瘍性大腸炎の基本薬です。従来からのサラゾスルファピリジン(サラゾピリン)やその副作用を軽減するために開発されたメサラジン(ペンタサやアサコール)という薬が用いられます。経口薬の他、肛門から腸に直接薬を注入する注入薬があります。軽症ないし中等症の活動期潰瘍性大腸炎の寛解導入に有効です。寛解期の再燃予防にも有効とされています。

■副腎皮質ステロイド薬

経口ASAで効果がない場合は、ステロイド薬の内服や注入療法が用いられます。経静脈的に用いることもあります。活動期潰瘍性大腸炎の寛解導入に有効です。寛解維持には効果がないため、基本的に寛解状態になれば徐々に減量し、最終的に中止します。

■白血球除去療法
潰瘍性大腸炎では、免疫が自分の腸を絶えず攻撃してしまうために、炎症が続いて腸が傷ついてしまうと考えられています。活性化している白血球(攻撃して悪さをしている白血球)を人工透析と同じような方法で体外に取り出し、フィルターにかけて除去し体内に戻します。

■免疫調節剤
6-メルカプトプリン(ロイケリン)、アザチオプリン(イムラン)、最近ではシクロスポリン(サンディミン)やタクロリムス(プログラフ)という薬が用いられます。過剰な免疫反応を調節する薬です。ステロイド薬が無効の患者さんやステロイド薬が中止できない患者さんの治療に用いられます。

■抗TNFα受容体拮抗薬
インフリキシマブ(レミケード)やアダリムマブ(ヒュムラ)という薬が用いられます。炎症を起こすタンパク質(サイトカイン)のひとつTNFαを阻害します。他の治療法では十分な効果が得られない患者さんが対象となります。

2)潰瘍性大腸炎の外科的治療法・手術
潰瘍性大腸炎の大半は内科的治療でコントロールできますが、内科的治療で十分な効果がなく、日常生活が困難になるなどQOLが低下した例、内科的治療治療で重要の副作用が発現、または発現する可能性のある例は手術適応とされています。手術は大腸の全摘が基本になります。最終的に人工肛門になる方はごくわずかです。

潰瘍性大腸炎の食事と薬物療法のポイント

強い炎症が起こっている場合は、絶食になることもありますが、症状が落ち着いている状態であれば、絶対食べてはいけないという食品はありません。ただし、脂っこい食物や香辛料・アルコールなどの刺激物は控えるようにしましょう。暴飲暴食を避け、バランス良く食べることが食生活の基本です。

食事に気を付けることはもちろん必要ですが、食事内容に過度に神経質になるより、薬物治療を確実に行うことがさらに大切です。潰瘍性大腸炎は症状が落ち着いても、再び症状が現れる、再燃の可能性は常にあります。1/3~1/2の患者さんは1年以内に再燃を起こすと推察されています。薬の服用をやめてしまえば再燃の可能性は高くなりますので、症状がなくても医師の指示通りに薬を飲み続けるようにしましょう。

潰瘍性大腸炎と大腸がんとの関係

病変の範囲が長い潰瘍性大腸炎では、長い年月でみると、大腸がんの発生率が普通の人よりも高くなることが知られています。診断から10年で2%、20年で8%、30年で18%に大腸がんの合併を認めます。潰瘍性大腸炎に合併するがんは、普通の大腸がんと形が少し異なり見つけにくいこともあります。担当の先生と相談して、定期的に検査をうけましょう。

潰瘍性大腸炎の際の妊娠と出産

妊婦と医師

主治医とパートナー、家族と話し合いながら、計画的な出産をするのがいいでしょう

潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患であるだけで不妊率は増加しません。多くの報告があり一定の見解は得られていませんが、寛解期に妊娠した炎症性腸疾患の再燃率は、非妊娠者と同等です。ただし、炎症性腸疾患が活動期の妊娠では2/3の患者さんで活動性が持続、うち2/3が悪化するという報告があるため注意が必要です。炎症性腸疾患では3か月以上の寛解維持期間をおいて妊娠するのがいいでしょう。もしも、妊娠中に悪化しても、治療を受けながら無事に出産することは可能です。主治医に相談し、きちんと治療を受けながら妊娠を継続させましょう。炎症性腸疾患治療薬の多くは、治療に有効であれば安全に投与できるというのが近年では主流となってきています。主治医とパートナー、家族が話し合って、計画的に出産を行うのが理想的です。

潰瘍性大腸炎の医療費の助成制度

潰瘍性大腸炎は国が指定した「特定疾患治療研究事業」の対象疾患になっています。潰瘍性大腸炎と診断された場合は、所定の申請手続きを行い認可されると、潰瘍性大腸炎に伴う医療費の助成を受けることができます。医療機関や保健所で相談して下さい。

その他、胃腸の病気に関連して「血便の原因で考えられる病気一覧【医師が解説】」も併せてご覧下さい。
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