『わたしのおひなさま』― 不思議な物語のはじまりは、流しびなから
『わたしのおひなさま』は、おばあちゃんが、お母さんの折ってくれたおひなさまで主人公のももちゃんの体をさすってくれるところから始まります。「このこがじょうぶになりますように。
ひとりでおんもにでられますように」
流しびなは、紙や藁で作った人形などで体をなで、それらを川に流すことで穢れを祓い、健やかな成長を祈るというひな祭りの元になった行事。この流しびなと平安時代以降宮中で行われた人形遊び「ひいな遊び」とが結びついて、現在のようなひな祭りになったと言われています。もちろん、今でも流しびなの風習が残る地域もあります。
さて、そんな願いのこもったももちゃんの流しびなですが、なんと、川の底からすーっと伸びてきた手に持っていかれてしまうのです。
急展開! かっぱの流しびな
ももちゃんのおひなさまを持っていってしまったのは、かっぱのお父さんでした。病気の娘・かなこちゃんを救うため、おひなさまが必要だったのです。ぜいぜい息をするかなこちゃんを、おひなさまでさすり続けるお父さん。願いをこめたおひなさまが流れていくのを頭を垂れて見送るお母さんや川のみんな。おひなさまにどれだけの思いがこめられているかが伝わってきます。
水中で流しびなというのは不思議なもので、「よく息ができるねえ」とか「川の中に川があるの?」とか、子どもたちからのツッコミも多くありますが、そこは山本孝さんの力強い絵の力や物語の持つ勢いで、グングン読みすすめることができます。
かっぱからのお礼、3色の石の秘密は……
菱餅よりも食べる機会が多いあられ。同じように、おめでたい3色は欠かせません。
それぞれ雪・蓬(新緑)・桃の花をイメージしており、流しびなと同じように「身の穢れを祓う」という意味が込められています。かなこちゃんは、流しびなを貸してくれたももちゃんの健康をお祈りしてくれたのですね。
ひな祭り、子どもの成長を喜ぼう!
無我夢中で自分のおひなさまを取り返そうとかっぱを追っていったのに、最後にはかなこちゃんの病気が治るよう祈りながら、おひなさまが流れていくのを見送ったももちゃん。そこには、ももちゃんの心の大きな成長が見られます。そしてその結果、ももちゃんは一人で外に出ることができるようになりました。ももちゃんを成長させたのは、かっぱのお父さんやお母さんの娘を心配する気持ちに触れたことや、そのことによりももちゃん自身がかなこちゃんの健康を祈る気持ちを持てたことだと言えるでしょう。
お子さんは、この1年いかがでしたか? 毎日一緒にいると気付きにくいかもしれませんが、子どもは着々と大きくなっていきます。この1年でできるようになったこと、分かるようになったことも、きっとたくさんありますよね。
お子さんが無事に成長したことを喜びましょう!
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