私が糖尿病の食事はヘルシー食でいいのだ! と言うと医療プロバイダーから無視されますが、これだけ薬があるのですから血糖管理は当り前で、よりヘルシーな人生を目指すのが世界のトレンドです。
(c)KAWAI Katsuyuki
糖尿病の治療法は代謝異常の程度、患者の全身の状態を考慮して医師が判断しますが、モチベーションが高く、A1C 7.5%程度の患者ならヘルシーな食事、体重コントロール、活動量アップを柱とする生活改善からスタートします。3~6ヵ月たっても血糖コントロール目標が達成できなければ経口血糖降下薬療法へと進むのが一般的です。その第一選択薬が欧米ではビグアナイド薬のメトホルミンで、日本では前記事で紹介したように(独)国立国際医療センター研究所のマニュアルではビグアナイド薬とスルホニル尿素薬です。
私自身の担当医はメトホルミンの処方を嫌がる古いタイプの医師でしたが、私が一日の総インスリン単位を減らすためにと説得して、インスリン+メトホルミンにしたところ、なんとインスリンを20%カットすることが出来ました。私の体型が欧米タイプなのかも知れませんが、メトホルミンの第1選択薬には個人的に納得しています。これによって併用する他剤の処方量を減らせるとすれば、体重減・低血糖減・コスト減につながるので、とても大きな利益が得られます。
糖尿病の血糖降下薬の種類とそれぞれの特徴
■ インスリン抵抗性改善薬ビグアナイド薬 一般名・メトホルミン・ブホルミン。主な作用としては肝臓での糖新生の抑制があります。2型糖尿病になると健常者の3倍ものブドウ糖が、高血糖であっても肝臓から放出されるので、まずそれを抑制するのが第一歩です。利点としては、世界規模の長期の使用歴があり、安全性、体重増なし、低血糖もありません。欠点としては人によっては消化器系への影響がでること、まれなことですが乳酸アシドーシスのリスクがあります。
コスト 安価
チアゾリジン薬 一般名・ピオグリタゾン・ロジグリタゾン。主な作用として、骨格筋・肝臓でのインスリン感受性の改善。利点として低血糖がない、薬の失効がない、HDLコレステロールを上げ、中性脂肪を下げるなど。欠点としては体重増、むくみ、心不全、骨量低下の可能性など。
コスト 高価(ただし米国では2012年よりジェネリック薬あり)
■ インスリン分泌促進薬
DPP-4阻害薬 一般名 ・シタグリプチン ・ビルダグリプチン ・アログリプチン ・リナグリプチン
主な作用として、血糖依存性のインスリン分泌促進とグルカゴン分泌抑制。利点として低血糖がなく、安全に連続して服用ができる。欠点としてA1C低下があまり大きくない、薬物の過敏性による発疹や血管性浮腫の可能性や膵臓炎の可能性?
コスト 高価
スルホニル尿素薬 一般名 ・グリベンクラミド ・グリクラジド ・グリメピリドなど。主な作用としてインスリン分泌の促進。利点として長い年月、広範囲の服用実績があり、UKPDS(英国前向き糖尿病試験)では細小血管合併症のリスク軽減があった。欠点としては、低血糖、体重増、薬の1次無効、2次無効など。
コスト 安価
速効型インスリン分泌促進薬 一般名 ・ナテグリニド ・ミチグリニド ・レパグリニド。
主な作用として、より速やかなインスリン分泌の促進。利点として食後高血糖の改善、投与の自由度の高さ、つまり不規則な食事の人にも対応できる。欠点としては体重増、低血糖、食事毎に飲む煩雑さ。
コスト 高価
■ 食後高血糖改善薬
α-グルコシダーゼ阻害薬 一般名 ・ボグリボース ・アカルボース ・ミグリトール
主な作用は炭水化物の吸収遅延。利点として食後高血糖の改善、単剤では低血糖なく、全身に作用する薬ではない。欠点としてはA1C低下があまり大きくない、消化管への悪影響(下痢や鼓腸、放屁)、食事毎に服用する煩雑さ。
コスト 中~高
■ GLP-1受容体作動薬
一般名 ・リラグルチド ・エキセナチド ・リキシセナチド
主な作用は血糖依存性のインスリン分泌促進とグルカゴン分泌抑制。食物消化吸収をゆっくりにして満腹感を維持。利点として低血糖になりにくい、体重減、ベータ細胞の活性化と復元の可能性。欠点としては指導が必要な注射薬であること、消化管への悪影響(吐き気、嘔吐)、動物実験では他臓器への影響の懸念。
コスト 高価
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■ インスリン
主な作用として血糖(ブドウ糖)を体に取り入れて、肝臓の糖新生を抑制して血糖値を正常化。利点として、高血糖の全てに有効であり、理論的にはいかようにでも血糖値を下げられる。欠点として、低血糖のリスク、体重増、指導が必要な注射薬、患者に「インスリン注射が止められない者」としての負い目を与えることなど。
コスト 日本ではとても高価だが、欧米ではヒューマンインスリンは安価。また、個人的に投与量の差が大きく、コストは一概に高い/安いとは言えない。
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以上の経口薬2クラスを一錠に配合した安価かつ合理的な配合薬が日本でも増えつつあります。担当医に相談してみましょう。また、米国のみで使われている別のクラスの薬がありますがここでは省略します。次々と新しいタイプの経口薬の治験が進行しています。
糖尿病の病態に合わせた血糖降下薬の選択を
日本では同クラスの薬でも製薬会社の併用適用申請がバラバラなのでとてもやっかいです。更に各社が追加併用を繰り返しますから、個別の薬の組合せはまとめようがありません。薬の効果や副作用は個人差が大きく、薬価負担も個人的な問題です。遠慮なく担当医に気になることを相談するように。インスリン抵抗性やインスリン分泌能力のテストは、必要に応じて糖尿病専門医ならチェックしてくれます。自分のインスリンがある程度分泌しているのに目標A1Cに到達できない人は生活習慣の改善が不十分のようです。
さて、2012年に発表された欧米の「2型糖尿病ガイドライン」では、まず第1選択薬としてメトホルミンを処方し、3ヵ月以上経過しても目標A1Cを実現できなければ、メトホルミンに加えてスルホニル尿素薬・チアゾリジン薬・DPP-4阻害薬・GLP-1受容体作動薬・持効型インスリンのいずれかを患者の病態に合わせて追加します。
更に3ヵ月経過しても目標A1Cに到達できなければこれらの残りの薬の中からもう1剤を追加します。例えばメトホルミン+DPP-4阻害薬の人では、病態によってスルホニル尿素薬やチアゾリジン薬、持効型インスリンの1剤を追加します。もちろん、その間に医師の判断で用量の増減があります。欧米ではα-グルコシダーゼはあまり使われていないので主な選択薬に入っていませんが、日本のように高炭水化物食が指導されている国では必要な人も多いでしょう。
メトホルミン+DPP-4阻害薬の人に持効型(基礎インスリンを追加すれば、今話題のBOT(Basal Supported Oral Therapy)の一例になります。これは基礎インスリンの不足分を外部のインスリンで補いながら経口薬で治療していく方法です。2型糖尿病は進行する病気なので、やがて食事の時のボーラスインスリンと基礎インスリンを組合わせるインスリン療法に移行する時に、BOTからはとてもスムーズにいく利点があります。
これだけ多様な、夢の様な糖尿病薬が続々登場する時代ですから、患者も薬の正しい知識を持って自分の希望を医師に伝えるように。どの薬の組合せがベストか?の答えは一人ひとり異なります。患者と医師で答を見付けなければなりません。