ミランは優勝を義務づけられたクラブ
危機的状況のなかで加入した本田に、求められるものとは。
赤と黒をチームカラーとすることから〈ロッソ・ネロ〉とも呼ばれるミランは、リーグ優勝を義務づけられた名門だ。セリエA制覇を逃したとしても、上位3チームに与えられるUEFAチャンピオンズリーグ(以下CL)の出場権獲得は、決して逃すことのできないノルマとなっている。
それだけに、今シーズンの不振は深刻だ。
1月12日のサッスオーロ戦でシーズンの半分に当たる19試合を終え、5勝7分7敗の11位に低迷している。ここまでの勝点は22で、首位のユベントスとは実に「30」もの大差をつけられている。CL出場圏内の3位ナポリとも、勝点20の開きがある。
昨シーズンも序盤は苦しんだが、リーグ戦が折り返しを迎えるあたりから白星を増やし、15節以降は1ケタ順位をキープした。最終的には3位でフィニッシュしている。
3シーズンぶりのスクデット──優勝クラブがユニフォームの胸につけるエンブレム──奪還だけでなく、CL出場権、4位と5位が進出するUEFAヨーロッパリーグ(以下EL)の出場権獲得も危うい。国内カップ戦のコッパ・イタリア優勝にはEL出場権が付随するが、それではサポーターを納得させることはできない。
17位に沈む格下サッスオーロに敗れた直後には、マッシミリアーノ・アッレグリ監督が解任された。今シーズン限りでの退任を明らかにしていた指揮官の交代は、ミランのチーム事情が切迫していることを示している。
本田がチーム浮沈のカギを握る
こうした危機的状況のなかで加入した本田に、求められるものは何か?
後半戦の巻き返しを担う、救世主としての働きにほかならない。
ミランは昨シーズンから若手重視へシフトしており、世界的なスター選手を2チーム分保有したかつてとは陣容が異なる。そのなかで攻撃陣を支えるのが、イタリア代表でレギュラーを務めるマリオ・バロテッリだ。圧倒的な身体能力と得点力を兼備する23歳の“怪物”に加え、ブラジル代表で豊富な経験を持つカカが攻撃を支えている。
さらにはイタリア代表クラスの新鋭エル・シャーラウィ、ブラジル代表歴のあるロビーニョ、昨シーズンのセリエAで15得点をあげたジャンパオロ・パッツィーニらのタレントも揃っている。だが、現時点で最良の選択肢は本田、カカ、バロテッリのトライアングルになる。
バロテッリとのコンビで本田の得点機が増える
昨年12月までプレーしたCSKAモスクワ(ロシア)は、フォワードのスピードを生かす攻撃を得意とした。セイドゥ・ドゥンビアやアメード・ムサらの黒人選手のスプリント力を、本田のスルーパスが引き出すというパターンである。逆説すれば、ドゥンビアやムサが本田に得点機を演出する機会は、かなり限定的だった。
ミランでは違った形が見られそうだ。バロテッリも個人で局面を打開できるが、屈強な身体を生かしたポストプレーにも秀でる。彼に一度ボールをあずけ、リターンパスを本田がフィニッシュすることもできるだろう。
入団してすぐのリーグ戦でいきなり途中出場したように、冬の移籍で加入した選手は即戦力としての働きが要求される。ましてや本田は、世界的名手が着けてきた背番号10を託された。試運転をしている時間はない。
数字的なノルマをあげるなら、後半戦のリーグ19試合で5得点以上は欲しいところだ。アシストも加えて10ゴール以上に絡む活躍をしなければ、ミランは上位に浮上できない。つまり、彼自身の評価も高まらない。
マウロ・タソッティ暫定監督のもとでリスタートを切ったミランは、今週中にも正式に新監督を迎えると見られている。クラブの立て直しを託される指揮官には、元オランダ代表でミランでもプレーしたクラレンス・セードルフが有力な候補に上がっている。
いずれにせよ、本田が果たすべき役割は変わらない。イタリア屈指の名門が難局を切り抜けるには、クラブ史上初のアジア人プレーヤーである本田の活躍が不可欠なのだ。