版画の技法あれこれ
アートの作品は、いろいろな手法や制作方法でつくられます。「版画」は、簡単に言うと「紙に版を刷ってつくられるもの」。“彫った消しゴム”(=版)を“スタンプする”(=刷る)、ということと似ています。とはいえ版画と一言で言っても、版の素材は多様です。木版画(版は木で、削って凹凸をつける)、銅版画(版は銅で、傷のような凹凸をつけて版をつくる)、リトグラフ(版が石などで、油と水の反発で刷っていく)、シルクスクリーン(版が絹などで、布の網目を利用して刷っていく)など、多様な種類があります。そして、それぞれの版でつくられた版画は、それぞれの出来上がりが違うのです。「どんなものであれ、印刷物とかモニター画面ではなく、額から外してシート(刷った紙)の状態で見ていただきたいですね」。
では早速見て行きましょう。
例えば、この藤田典子《bedroom 1》。いわゆる「銅版画」の手法をつかっています。版画は紙に絵具を塗ってモチーフを描いているのではありません。
インクはローラーで詰めます
「藤田さんの作品は、繊細な線描をつかって、網目やドットなどを描きます。紙の表面を虫眼鏡などで見てみると、ツルツルではなく、紙の上にインクが立ち上がって見えます。これこそが銅版画の魅力であり、カッコイイと思えるところなんです!」
続いて、鈴木敦子の木版画作品です。木版画の版は「木」です。木版画に限らず版画は、モチーフの元である「版」を、表現されるモチーフや刷る色によって、いくつもつくり、それを紙に重ねていきます。
鈴木さんはまず、木の板にすべてのモチーフ彫って、全体に色を塗って刷ります。下の画像は、その「1版目」です。版は上に上に重ねて刷るので、1版目は一番おおまかな絵柄が描かれています。
版画は紙に写されたとき反転するので、出来上がりの作品と左右反対に彫られています。全体の版を紙に刷ったら、次は部分ごとに色を足していきます。出来上がりの作品では、空の月が白く、両端の樹木の色が濃くなっています。こういう場合の版は色分けをして、部分ごとを刷ります。
1版目を刷った紙の上に、この月と木の部分の版を重ねて刷ります。このようにどんどん部分ごとに、違う色や濃い色を重ねて行き、木版画は完成します。
「木版画の版は木です。木は優しく温かみある素材というだけでなく、色を重ねることもできるため、繊細な色の層が見えます」。
版の種類や技法によって異なる「版画だけの味」を確かめてほしい、と荒井さんは言います。
「版があれば、何枚もつくれてしまう、複製性が版画の面白さでもあります。この10年くらいは『1点モノの絵画』のような世界にひとつしかないものに価値があると思われていますが、実はそうではないんです。だからこそ、画集や展覧会で見かける作品を『私も持っている』と思うことができる、贅沢なアート。名画家たちは版画を多く残しているので、『いいなあ』と思うものが版画であることも多いんですよ」。