今回は、いわゆる版画や絵画と呼ばれるアート作品を扱う、不忍画廊/SHINOBAZU GALLERYのオーナー・荒井裕史さんに、アート作品の見方についてお話を伺います。

モチーフを味わう

アートを語るとき、いくつかの専門用語を覚えておくと便利です。絵画や版画、写真などは、キャンバスや紙でつくられた「画面」に何かを「表現」したものです。画面に表現されたモノは「モチーフ」と呼ばれます。私たちは「画面」に「表現」された「モチーフ」を見て、表現者が何を表現しているのかを想像したり考えますが、それを「鑑賞」といいます。
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山田純嗣 《(12-12) BODHIDHARMA》 2012年 ポリコートパネルに印画紙、樹脂、パールパウダー、インタリオ・オン・フォト 20×20cm ed.3

例えばこの作品のモチーフ、私も知ってますよ!達磨大師像でしたっけ、仏教の修行者ですよね。

「よく見てください。実物を間近で見ると、モチーフの背景のグレー部分は、細い線で模様が描かれているのです」。

本当ですね、しかも絵は平面のはずなのに、模様のせいでこの達磨大師は立体的に見えます。

「この作品は、国宝の《慧可断碑図》(えかだんぴず、斉年寺蔵)をモチーフに制作しています。もとは15世紀に活躍した雪舟が水墨画で描いたものですが、それをアーティストの山田純嗣さんは、単なる模写ではなくオリジナルの手法で制作しています」。

オリジナルの手法?筆と絵具で描いたものではないのですか?そうなんです、山田さんの手法は、とても変わっているんです!

「まず達磨像を、竹ひご、針金、石膏などを使って3次元の立体でつくります。出来上がった立体は、元の水墨画と全く同じ構図のジオラマとして配置し、撮影します。出来上がった写真を、元の水墨画と同じサイズに引き伸ばして、銅版画の版をつくります。その版を刷ったものに、樹脂やパール色の粉を掛けて出来上がったものが、この作品なんです」。

制作方法を聞いただけでもクラクラします。しかも作品によっては、制作に1年以上掛かるそう。でもこの作者である山田純嗣さんは、この制作方法でないと、自分が納得できる作品にならないそうなのです!

「こうした時間のかかる過程を承知した上で、もう一度この作品を見てください。元のまず「慧可断碑図」と同じサイズでつくったうえで、ギョロメの「達磨」だけを抜き出して<POPなアイコン>として小品「達磨」を誕生させたのです。だから面白いのです」。

最初は「達磨像か」とだけしか思わなかったかもしれなかった皆さんも、改めて画面を眺めてしまいますよね。制作の裏話を知るだけでなく、元の作品から「達磨像」だけを切り取った意図を想像したり、自分なりの達磨像ストーリーを思い描くような「味わい方」をしてみると楽しいですね!