A1Cは平均血糖値ですから、毎日の高い山、深い谷を表わしません。合併症の進行はそこにも原因があります。血糖測定が頼りです。
人生を全うするには合併症を予防する、あるいは折り合いをつけなければなりません。
糖尿病の合併症はどこまで予防できるか
合併症は予防できますし、初期の症状があっても進行を止めて元に戻すことも可能です。ポイント・オブ・ノーリターンと言って、例えば飛行機が離陸の際にある速度に達すると、もう飛行中止が出来なくなるポイントがあるように、合併症予防にも超えてはならないポイントがあります。ただ残念ながら、糖尿病合併症のポイント・オブ・ノーリターンは殆んどが自覚症状がない時点です。だからこそ定期的な検査を守ることが必要なのです。糖尿病と糖尿病合併症予防法……WHOによる3段階の予防
■1次予防生活習慣を改善して、遺伝的に糖尿病リスクが高い人の発症を阻止する活動です。平成20年度からの特定健診、特定保健指導、いわゆるメタボ検診がそうですが、肝心の糖尿病予防には日本独自のメタボ検診の腹囲やBMIの選定基準を入れてはなりません。つまり、腹囲が男性<85cm、女性<90cm、BMI<25でも血糖検査をして糖尿病診断の基準に従うべきなのです。腹囲にこだわると、せっかくの早期発見の機会を失うことになります。標準体型の糖尿病のある人はいくらでもいるのですから。
■2次予防
まだ糖尿病と診断されていない人を早期に発見して適切に治療すること、と定義されていますが、一般的には糖尿病が原因となって起こる合併症の発症予防を指します。
■3次予防
合併症がすでに発症している糖尿病において、合併症がさらに進行して重篤な臓器障害を起こさないようにすること、です。
糖尿病の2次予防やケアはどこまで可能か?
今月、2013年12月にメルボルンで開かれた国際糖尿病連合(IDF)世界会議に合わせて、英国糖尿病協会(Diabetes UK)は糖尿病患者が安心できる生活を送るための15の基本的なチェックケアのリストを発表しました。ほとんどが関連記事「自分だけの治療計画とアクションプラン (1)、(2)」の内容と重複しているので、ここでは説明を省きますが、15のチェックリストは次のようなものです。なお、英国では制度上は自由に医師を選ぶことが出来ず、診察も医療機関の都合でいつでも先延しされますから、内容によってはけげんな顔をされるかも知れませんが、その点は含んでお読みください。- 血糖測定を少なくとも年1回は受けよう。HbA1c測定はあなたの血糖コントロールを示し、医療チームの判断の元になる
- 血圧を少なくとも年1回は測定記録して、あなた自身の目標を決めてもらう
- 毎年、血液中の脂質(コレステロールのような)を測定し、実現可能な数値目標を立ててもらう
- 糖尿病網膜症の検査を毎年受けること
- 足の検査を毎年受けること
- 腎機能の検査を毎年受けること
- 体重測定をして、減量が必要かどうか、腹囲を計測してもらうこと
- 喫煙者は禁煙のためのサポートを受けよう
- 「自分だけの治療計画とアクションプラン」を糖尿病ケアチームと立てる
- 糖尿病教室やイベントに参加すること
- もし、あなたが子供や若者なら、糖尿病専門医のケアを受けるように
- もし、あなたがいかなる理由で入院するようなことになっても、糖尿病専門チームの配慮があるケアを受けられるように
- 妊娠/出産を計画しているのなら、糖尿病者の妊娠/出産のスペシャリストのサポートを受けること
- 糖尿病は全身の病気で生活習慣の改善も必要です。各分野のスペシャリストの協力を得よう
- 感情や心の問題も、その分野のスペシャリストの支援を受けること。糖尿病と共にある長い年月は辛いことなのです
糖尿病治療においては、すべての患者が適合すべき最低限の水準があると英国糖尿病協会の責任者が語っています。この15リストの検査項目は、それこそ最低限ですが糖尿病治療を中断するとこれ以下になり、合併症の2次予防はできません。また、糖尿病ビギナーは以上のチェックリストを担当医が配慮してくれると思いがちですが、必ずしもそうとは限りません。糖尿病は患者自身が治療チームのリーダーにならないと合併症予防なんか、とても出来るものではないのです。
糖尿病の3次予防はどこまで可能か?
糖尿病があっても、長寿かつヘルシーな人生を送るための戦略は、なんと言っても合併症が始まる前にストップさせることです。だから、1次予防、2次予防が大きな結果につながるのですが、残念ながら合併症がある場合でも、あきらめてはいけません。ベストを尽くして進行をストップさせましょう。また、医師や研究者たちも次のような新しい治療法や薬の開発に取り組んでいます。希望を持ちましょう。■ 糖尿病合併症としての心血管病
名前から心臓病と思いがちですが、心臓と脳の血管障害を指します。心臓発作や脳卒中を防ぐには、血圧・コレステロール・血糖を目標レンジに収めることと禁煙ですが、最近は早発性動脈硬化も発見できるようになりました。米国では心臓発作を起こした人の約50%は冠動脈疾患の前兆がなかったのです。血液中のマーカーであるC反応性タンパク、フィブリノーゲン、ホモシステイン、リポタンパク(a)などの検査や、電子ビームCT、頚動脈エコー等の進歩があります。
心臓弁の交換も開胸せずに血管経由で出来るようになりましたし、抗血小板剤のプラヴィックスも特定の遺伝子を持つ患者にはよく効くことを研究者は知っています。
■ 失明につながることも…目に起こる糖尿病合併症
多くの研究が血糖と血圧のコントロールが糖尿病網膜症の予防になることを証明しています。失明につながる増殖網膜症や黄斑浮腫は自覚症状が出た時は手遅れなのです。
レーザー光凝固は糖尿病者の目を救ってくれますが、そのタイミングがとても大切なので、くれぐれも治療中断をしないことです。
網膜の毛細血管の亢進を防ぐため、抗がん剤のベバシズマブ(製剤名アバスチン)を眼球に注入する症例も報告されています。がん細胞も血流が止まった網膜の細胞も、大量の血液を必要とするために、血管を伸ばすVEGF(血管内皮増殖因子)というタンパク質を分泌するので、それを阻害する薬が同じ作用を持つのです。この薬は、時々とてもよく効くケースがあると報告されていますが、長期間は効果が続かないようです。同様な薬が開発中とのことです。
すでに気づかぬ内に網膜症がある患者が、インスリンなどで急激な血糖コントロールをすると網膜症が悪化することがあります。そのメカニズムには諸説ありますが詳細は不明です。
血糖是正は日本の熊本スタディで明らかにされたように、HbA1c値で1ヵ月あたり0.5~1%ポイント以内が望ましいとされています。網膜症の変化を見ながら徐々に行うのが原則です。そのことを知らない不注意な医師がいますから、患者自身が医師任せにしないようにしてください。
関連記事:糖尿病の目の検査、こんなことを調べています
腎臓や神経障害の重症化予防のニュースは長くなるので別の機会に譲りますが、誰でも知っているように合併症予防は血糖コントロールがなによりも大切です。どうしてもHbA1cが合併症予防の最低ラインの7%を切れないのなら医師を替えるタイミングです。医師と糖尿病患者の相性は、うわべではなく数値に表われます。自分の意志の弱さにしてはいけませんよ!