写真は、「商業写真」(宣伝広告で写真つかうような場合)と「芸術写真」(展覧会で展示をするような場合)に大きく分かれます。写真について語るとき、この2つは使用目的や見せる場所、クライアントの有無だけのような成り立ちも異なることを知っておかなくてはなりません。
今回お話を伺う井村一巴さんは、依頼されて写真を撮影し、その画像を提供するという商業写真のカメラマン的な仕事と、画廊やアートフェアなどで発表するための芸術写真(アート作品として制作した写真)の両方の仕事をこなしています。
でも写真を見ただけでは、商業写真と芸術写真がどう違うのか、分かりにくいもの。井村さんのお話を伺いながら、アートとしての写真の見方のコツを一緒に学んでいきましょう。
商業写真とアート写真の違い
パンフレットやウェブサイトなどをつくるとき、写真は「プロのカメラマン」さんにお願いをして撮影してもらいます。例えば「料理の写真をおいしく撮ってほしい」という注文に対して、カメラマンは「食べてみたい!」と思うような写真をちゃんと撮ってくれます。「私が商業写真の仕事をするときは、まず目的をよく聞いて、デザインのことも考えながらその中で何をしていくのか、というゴールを定めます。注文が多いときはヒアリングで目的や要点をまとめていきますし、注文があいまいなときは具体的な話をしながら確認して、ゴールを目指します」。
井村さんの場合、撮った写真をその場で見ながら確認して、また撮影、という流れで仕事を進めます。
「一方、アート作品として写真を撮るときは、最初にゴールを定めていることは少ないです。でも撮影者である私のフィルターを通したものであることがはっきりしていないといけません」。私たちも会話で「アートっぽい写真」と言うとき、撮影者の個性が出た写真、という意味でつかいますよね。井村さんのフィルターを通すと、井村さんの個性が出た写真になるのです。
私とプロの違い
そうは言っても、私がシャッターを切ったものと井村さんの写真では、具体的に何がどう違うのでしょう?例えば右の写真上。木に囲まれた空、画面の中心にはシュッと尾を引きながら飛行機が飛んでいます。「写真をぱっと見するだけでは、被写体だけしか分かりません。私はそれ以上に、ファインダーの手前にあるもの、視点の位置や角度、撮影者の態度、ときには心のありようや感情、思想を示すものだと考えています」。
井村さんの画面の切り取り方もステキですが、私だったら、遠くにある飛行機をズームにして撮影するでしょう。
また、下の花の写真では、花びらのピンクを淡くしたり、もう少し引いて全体が写るようにするでしょう。皆さんだったらどう撮影しますか? こういう視点やくふうの「違い」は、撮影者の考え方(コンセプト)による、つまり個性とも言えます。
「絵を描くときに画家は、ただ絵具をキャンバスに塗っているだけではありませんよね。画家の考え方(コンセプト)や意識を元に、色をどうつかうか、筆をどう動かすか、悩みます。写真も同じように、写真を現像しプリントする、加工を加えることも、撮影者自身の意識の表れです。また、絵を見るときに鑑賞者は、画家の考え方(コンセプト)や意識とは違う、鑑賞者自身の見方で絵を見ています。写真に対しても同じ。さまざまな解釈や理解、誤解、感動、意外性などを生み出すのは、見る人=鑑賞者なのです」。
だから「こんな写真、私でも撮れるわ」と思ってしまっても、必ずしも撮影者の意図をくみ取って、写真を鑑賞しているとは限らないのですね。