マスクを正しくかけないのはマナー違反です
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CDC(米・疾病対策センター)によると、インフルエンザの合併症による入院患者のうち、成人の80%、小児の50%は糖尿病・ぜんそく・心臓病などの慢性疾患のある人たちでした。
同じくCDCによると、1990~1999年のインフルエンザ合併症による呼吸器系・循環器系の死亡率(推定値)は、10万人あたり0~49歳では0.4~0.6人、50~64歳では7.5人、65歳以上では98.3人と高齢者になると極端に高いリスクになります。特に2型糖尿病は老人病でもありますから、予防に手落ちがあってはなりません。なぜ糖尿病や高齢になると細菌やウイルスから体を守る免疫力が落ちるのかを改めて確認して、糖尿病患者のインフルエンザ予防のポイントを解説いたします。
老化や糖尿病による免疫力低下とは
かなり昔の研究ですが、細菌培養用のふた付きの浅いガラス皿(ペトリ皿)に糖尿病患者の高血糖の血液を入れて観察したところ、明らかに細菌と戦う白血球の力が低下していました。風邪やインフルエンザは細菌ではなく、ウイルスによるものですが、老化や慢性疾患、外科手術後などで免疫力が落ちていると、ふつうの健常人には感染症を起こさないような弱い、無害な菌によっても感染症を起こすことが知られています。いわゆる日和見(ひよりみ)感染です。免疫の話はとても難しいので、少し長くなりますが多田富雄先生の『免疫の意味論』から引用させてもらいましょう。
糖尿病患者はたとえ血糖コントロールがよくても、このような経過をたどるリスクが高いのです。ですから、日常生活からインフルエンザ予防を心掛けることが大切です。『冬の朝、同じバス停でバスを待っている青年と老人が、同じインフルエンザに曝されたとしよう。青年のほうは、まずインフルエンザにかかる確率が老人よりはるかに低いし、かかったとしても、定型的な一時免疫反応の経過をたどって数日のうちに治癒してしまう。……中略……老人のインフルエンザはいささか違う。それほど高い熱が出ないのに全身がけだるい。初期の防衛反応であるインターフェロンやIL1の生産が悪く、ウイルスは広範囲に広がる。T細胞の反応もおかしく、インターロイキンのいくつかは過剰に作られるが、あるものはあまり作られない。そのために片寄った炎症が肺などに現われ、通常は問題にならないような細菌が繁殖して肺炎を起こしたりする。B細胞はウイルスを中和できるような抗体をあまり作らない。病気は長引き、肺炎などの二次的な合併症を起こすようになり、それはしばしば致命的である』。
糖尿病患者のインフルエンザ予防の心得
糖尿病のある人は何よりもインフルエンザウイルスを避けることが、肺炎などの重い合併症にならないために必要です。- インフルエンザ予防の基本は年1回のワクチンの接種です。米国の糖尿病患者は生後6ヵ月以上の乳児を含めてその年に流行しそうなインフルエンザワクチンの接種を特に勧められています。1型・2型の糖尿病の区別もなく、血糖コントロールの状態も問題ではありません。人工透析が必要な腎疾患、ぜんそく、妊娠後期に免疫力が落ちるとされる妊婦なども感染症弱者ですからワクチンが勧められています。糖尿病者には肺炎予防ワクチンを生涯に1度、64歳以上は数回接種することも勧告されています。担当医と相談しましょう。
- 最適な時期にワクチンを! インフルエンザが流行し始める季節の早期に接種します。インフルエンザの流行は10月頃から始まって、ピークが1月か2月で、5月まで続きます。
- ワクチン接種が遅れても、しないよりはした方がベターです。ワクチン接種をして、体の免疫システムがウイルスを認識して抗体をつくるまでに2週間掛りますから、地域でインフルエンザが流行する2週間前には接種を済ませます。しかし、流行が始まった後でもワクチン接種はした方がよいのです。日本では早目に予約をしておかないと医療機関で門前払いをされますから注意しましょう。
- ワクチンは万全ではありません。ワクチンでインフルエンザになることはありませんが、ワクチンを接種してもインフルエンザにかかることはあります。注射の跡がうずいたり、赤くなることもあるかも知れません。まれには数日間にわたって腕がだるくなったり、軽い筋肉痛、熱をもつことなどの報告があります。接種時の注意事項を守りましょう。
- インフルエンザ予防の日常生活の注意点
必要時以外の外出、病人との接触を避ける。また、罹患した場合は他者との接触を極力避ける。
インフルエンザのような状態になったら、熱が下がっても24時間は通院以外は外出しないように心掛ける。他者にうつす危険があります。
手洗いは石鹸をつけて指先、指の間から手首まで念入りに。外出や人と接触した後は、うがいと共にすぐ行う咳をしたり、はなをかむ時はティッシュでカバーして、そのティッシュは放置しないこと。
手で目や鼻、口を触らないこと。
栄養・睡眠を十分にとり、適度な室温、湿度の室内環境を保つこと。
- 発熱、せき、体の痛みのようなインフルエンザの症状が出たら医療機関にすぐ連絡を入れる。特に小児、高齢者、慢性疾患のある人は迅速に。抗ウイルス薬はウイルスに感染してから最初の48時間以内に使用するのが重症化を防ぐ効果が高いのです。日本ではインフルエンザの抗ウイルス薬として、タミフル、リレンザ、ラピアクター、イナベルの4薬剤が使われています。
- 糖尿病患者は担当医とシックデイの対応を確認しておくこと。シックデイとは治療中に発熱、下痢、嘔吐をきたし、食欲不振のために食事ができない状態をさします。インスリンや投薬、脱水などの特別の注意が必要になることがあります。
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