あまりの高性能に、スリルも速さも体感できない
デュアルクラッチの7速F1トランスミッションを搭載。パフォーマンスに合わせて専用のクロスレシオに設定された。磁性流体サスペンション(SCM-E)やF1-Tracをはじめとする各種電子制御システムを装備
速度を上げていくにつれて、ノーズの動きが、ドライバーの心の昂りと歩調を合わせるかのように俊敏になってゆく。サウンドを楽しむ余裕も、次第にできてくる。そのプロセスが、まずもって、楽しい。カーボンセラミックブレーキのタッチは実に信頼感のあるもので、加速と同じくらい制動を楽しみたいと思わせるに十分な性能の持ち主だ。減速が頼もしく面白いと分かれば、なおいっそう、加速が嬉しくなるのが、道理である。
かつて、首都高1周程度の短い時間で、クルマと“一体”になれてしまう12気筒フェラーリなど、あっただろうか。逆にいうと、その一点をしてF12の弱点をみた、ということもできるだろう。つまり、あまりに高い性能レベルで“扱いやすさ”を実現してしまっているから、たとえば740psというパワースペックも、もはやスリルとして体感することが叶わない。速いけれども、驚かない。後輪駆動であるにも関わらず!
それはとりも直さず、フェラーリがこのF12を、世界最高のFRスポーツカーとして、よくできた史上最強のグランツーリズモとして、生真面目に進化させた、ということの証でもある。そう、やはりコイツは、フェラーリの伝統に回帰した、超正統派のグランツーリズモ・ベルリネッタであった。
12気筒フェラーリに、V8ミドのような刺激と興奮を求めたい、という方はF12ではなく、中古車市場で驚くほどリーズナブル(といってもF12より高いが)になった、599GTOを薦めておこう。
F12は、ロードカーとしてのフェラーリに、世界最高性能のみならず、走りの“総質感”を求めるという成熟したフェラリスタにこそ、お似合いだ。