ロスカット10秒ルールが判例に?
今回の判例がFX取引に与える影響は?
今回問題になったのは、損失が無限大に拡大することを防ぐため、あらかじめ決めておいた為替レートになった時、自動的にポジションを決済する「ロスカット」に関するものです。
原告側は、設定しておいたロスカットのレートに達してから、実際にロスカットが行われるまでに約18秒のタイムラグがあり、その間の為替変動によって大きな損失を被ったとして、松井証券を訴えました。これに対して東京地方裁判所は、「10秒を超えれば、合理的範囲内とはいえない」として、被告に対して200万円の支払いを命じたのです。
つまりこれは、指値のレートに達しているのに10秒を超えて約定できないと、その間に投資家が被った損失は、すべてFX業者がかぶることになる、という解釈が成り立ちます。
これ、FX業者にとってはかなり怖い判例になるのではないでしょうか。別にFX業者の肩を持つつもりはありませんが、私自身も実際にFXのトレードをしていて、レートがなかなか提示されなかったり、約定までに時間がかかったりすることは、結構よくあることです。こういったことすべてに対して、FX業者が損害賠償を求められるようになったら、日本でFXビジネスを行う会社がどんどん少なくなってしまうのではないかと懸念する次第です。
常に潤沢な流動性があるとは限らない
問題は、この10秒ルールを提示した裁判長が、どこまでマーケットやFXの仕組みを熟知していたのか、ということでしょう。確かに外国為替市場では日々、物凄い金額の取引が行われており、マーケットの中で最も流動性に富んでいるのは事実です。ただ、通貨ペアの種類によっては、ほとんど流動性が伴っていないものもありますし、何よりもFXのOTC市場(取引所を介さない業者間の店頭市場)とインターバンク市場は、似て非なるものであるという事実があります。
インターバンク市場は、銀行同士が大きな額の取引を行う場なので、相応の流動性はありますが、FXのOTC市場は、基本的にFX業者が為替レートを提示し、投資家の取引相手となる市場ですから、インターバンク市場に比べれば格段に流動性は落ちます。
今回の判決内容は、果たしてどこまでFXの実情を理解したうえでのものなのか、少々疑問が残りました。これが下手な前例にならないとよいのですが……。