F1を心の底から楽しむファン達
日本グランプリの翌日、各一般紙は観客動員の大幅な減少を報じた。しかし、日本人ドライバー不在で、地上波テレビでも中継放送が行われず、最近は世間の話題になることが少なくなった厳しい現状を考えると、決勝日に8万人以上もの観客がサーキットを訪れたのは健闘したと言えなくもない。決勝レース中の風景
【写真提供:MOBILITYLAND】
F1のチケットは他のスポーツイベントに比べて高い。今年のチケットは最も安い席で11000円、最も高い席で72000円と国際レースならではの料金設定である。しかし、最近は女性専用のレディース席やグループ席などグループで購入すると1枚あたりの単価が安くなる席も充実している。特に今年はレディース席がよく売れたのか、女性グループのファンが目立った印象で、F1が走行していない時間は日差しを避けられる場所でレジャーシートを広げ、ピクニック気分でF1の雰囲気を楽しんでいる女性が多かった。
女性ファンのお目当てはやはりハンサムな外国人ドライバー。特に昨年から「ロータス」でF1に復帰したキミ・ライコネンや「メルセデス」のニコ・ロズベルグの人気は絶大で、ライコネンのフィンランド国旗やロズベルグのドイツ国旗を持ち、チームウェアはもちろん、オリジナルのぬいぐるみや衣装を制作して応援するファンも多い。最近はアイドルのコンサートさながらだ。
グロージャンにサインをもらう女性ファン
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地元三重県の女性2人組に聞いてみた。「元々はセナのファン。彼の死後、F1から離れたのですが、2006年に鈴鹿でのF1が一旦終了するタイミングで観戦し、F1熱が再燃しました」「2009年の鈴鹿でのF1復活の時に連れてきてもらって、すっかりハマってしまいました」とのこと。2006年は鈴鹿の日本グランプリが最後という要素に加え、ミハエル・シューマッハが引退を表明したレース。16万人を動員した特別な雰囲気を機にF1日本グランプリの虜になってしまったのは自然なことかもしれない。また、応援する対象については「ザウバーのニコ・ヒュルケンベルグを応援していますが、今日はベッテルの帽子を被っています(笑)」とチャンピオン争いをするドライバーに加え、その年の注目ドライバーを自分なりに決めて楽しんでいるそうだ。
ドライバーフォトスポットで記念撮影する女性ファン
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また、関東から来場したライコネンファンの女性2人組はライコネンのフィンランド国旗を持ち一生懸命に応援しながらも、ちょっとマニアックな見方で楽しんでいる話を聞かせてくれた。「F1を最初は何となく見ていたのですが、ミハエル・シューマッハが引退する時にこれからF1はどうなっていくのだろうと気になりはじめて真剣に見るようになりました。ミハエルに代わってフェラーリに来たライコネンを応援するようになり、傍に居たクリス・ダイアー(当時のレースエンジニア)が気になりはじめました。彼のことを調べていくうちに、レースエンジニアとはどんな仕事なのかに興味が出てきて、クリスを応援するように。今はマッサのエンジニアのロブ・スメドレーや、グロージャンのエンジニアの小松礼雄さんも応援しています」とドライバーだけでなく応援の対象をチーム首脳陣やスタッフにまで広げて楽しんでいる女性ファンは多いという話も教えてくれた。
こういう楽しみ方は一見、マニアックにも思えるが、F1はドライバーだけでなく優秀なスタッフがその力を最大限発揮して成り立つチームスポーツ。レースを見る上で大事な要素を新しいファンがそれぞれのペースや興味で理解し、さらに面白さを感じていっているのだと感じる。
ステージで開催されたF1サポーターズコンテスト
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またファンが自分たちで楽しむだけに留まらず、会場全体で盛り上がるイベント作りを鈴鹿サーキットは数年前から行っている。その代表と言えるのが「サポーターズコンテスト」。オリジナルの応援衣装やメッセージフラッグを持ったファンがステージに登壇し、応援の力の入り具合を競い合うコンテストだ。優勝したファンはF1パドックで豪華な食事付きの観戦が楽しめるVIPエリア、パドッククラブ(販売価格50万円)に招待されるため、年々ファンのコスプレや応援にも気合いが入ってきている。F1日本グランプリにはそれぞれの個性で応援する温かいファンが多いが、その理由にこういったイベントを開催する鈴鹿サーキットの影の努力がある。
今年は外国人ドライバーばかりになったF1で、ファンがどう盛り上がって楽しむのか少し心配ではあったが、そんな心配は無用だった。次のページではファンが今後のF1に期待することなど話を聞いたのでご紹介しよう。