特筆すべきはその“しっかり感”
試乗車は、プレゼンに使われた仕様と同じ、レッドメタリック(ロッソコンペティチオーネ)に塗られたレースパックオプション仕立てであった。前後タイア&ホイールがそれぞれ1インチあげられ、スポーツエグゾーストやスポーツサス、レザー&マイクロファイバーハンドルが与えられていた。カーボンヘッドライトベースやバイLEDヘッドライトもオプション。CFRPの太めの織り柄がみえるサイドシルは心もちせりあがっており、それを乗り越えて、コクピットに潜り込むようにして運転席につく。着座位置は、相当低い。
室内は確かにタイト。男ふたりで乗り込むと、その時点ですでに息苦しい。けれども、身長170cmの筆者なら、足元と頭上には十分な空間があって、ドライビングに集中するという点でスペース的に不満は一切ない。180cmくらいでも十分イケそうだ。
それよりも、全ての操作系が極めて扱いやすいパーソナル空間に収められていることの方が嬉しい。ライドモードによって変化する液晶メーターパネルも非常に小さいものだった。
スポーツ(レーシング)エグゾーストのせいだろう。アイドリング時から背後のサウンドは猛々しいのひと言。細かな振動も容赦なく伝わってくるけれども、これくらいのレベルならかえって気分を盛り上げてくれる。軽くレーシングしてみれば、野太く乾いたエグゾーストが後から覆いかぶさってきた。
まずは、レーシングモード付きDNAをNにして、オートマチックで走りだす。バックもそうだったが、微速で動き出すと、多少、ぎこちない。かといって、ドンッと踏むとグワッと飛び出すので、最初はややとっつきにくい印象があるだろう。動き始めのステアリングフィールは、ノンパワーゆえ、かなり重い!
動き出してしまえば、今度は軽さが印象的になる。しかもそれは決して浮つかず、四肢がしっかりと踏ん張っての軽快さだ。特筆すべきはその“しっかり感”で、この上なく頑丈な皿の上に載っかって移動する気分である。
ノーズの動きはダイレクトかつ俊敏。けれども、終始キビキビしているかといえば、そうでもない。ステアリングの切りはじめにこそミドカー特有のシャープさがあってハッとするが、そのさきにはこなれた前アシの動きがあって、慌てふためくことがない。
前アシが硬いCFRPモノコックボディに接続されているため、判りやすく動いてくれるのだろう。ただし、ノンパワーでアシが正確に動くが故、路面からの情報もまた正確に両手へと伝わる。その感覚は、最近なかったものだから、最初は妙な動きの連続に思われて、慣れなかった。いかに現代人が“電動の味の素慣れ“しているか、思い知らされた。
しばらくオートマチックでバロッコ郊外のカントリーロードや村道を楽しむ。乗り心地は確かにハードな部類だ。ガツンガツンと車体が硬く反応している。けれども、そのダイレクトさは決して内臓に届かない。振幅が乗り手の筋肉あたりで留まってくれる。降りた後には少し筋肉痛が出るけれども、乗っている間は不快な気分に至らない。
オープンロードに出たので、DNAをD(ダイナミック)にし、マニュアルモードでフル加速を試みた。加速フィールは、バカッ速、劇的だ。一般道でもアッという間に、200km/h近くに達してしまう。しかも、すこぶる安定しているから、恐怖感がまるでない。ブレーキングの安定感も素晴らしいから、また踏んでいける。
シフトアップそのものも非常に早かった。もう少し、キレ味のよさを演出してくれてもよかった気がしたが、変速時間はかなり短い。アクセルオフ時のバックタービン音だけは、下品で辟易したが。
ターボラグも皆無に等しい。トルクの太いNAエンジンのようで、V8自然吸気の5000回転以下を持ってきたかのよう。軽さと相まって、細かなスロットルワークにもよく車体が反応し、右足の出し入れが楽しくなる。
そのぶん、5000回転以上のエンジンフィールはさほど楽しいものではなく、最大パワーが発揮される6000回転までは惰性で回っているようにも思えた。