歯科インプラント希望者の傾向

「取り外し式の入れ歯が嫌だ。固定式の歯にしたい……。」
一昔前の歯科インプラント治療相談患者さんの大半はこうでした。取り外し式の義歯(入れ歯)はお口の中で違和感も大きい上に不安定。より快適な口腔環境を取り戻したいという希望での歯科インプラントのオーダーが多かったのです。

ところがここ数年は、
「健康な歯にできるだけ負担をかけたくないからインプラントにしたい」
という若い患者さんが増えてきました。

何らかのアクシデントで失わなければならなくなった歯を補うために、何もない健康な歯を削ったり、過剰な負担をかけたくないという理由から、失った部分だけで補うことができる歯科インプラント治療をご希望されるのです。

近代歯科治療は、安易に歯を削ったり神経を取ったりする事無く、本当に悪くなったところだけを削除して修復する方法としてMI(ミニマルインターベンション)という考え方が主流になってきています。本来の意味とは違いますが、やむを得ず失った歯を補う方法として歯科インプラントを選択することはMIの考え方と一致するかもしれません。

歯科インプラント治療を行う環境の変化

抜歯時の注意

周囲組織にダメージを与えないように注意深く抜歯する

歯科インプラント治療を希望される患者さんの傾向が変わってきたことで、歯科インプラント治療を行う環境も大きく変わってきました。入れ歯を使用していたという場合、抜歯してから一定期間経過していますので、歯根があった名残は無く、ほとんど平らな変化のない骨です。最近の歯科インプラント治療の場合、様々な理由から何らかの抜歯窩(抜歯した際にできる歯根の入っていた穴)が影響してきます。特に、抜歯と同時にインプラントを入れる抜歯即時埋入や、抜歯後6~8週でインプラントを入れる抜歯早期埋入の場合、ほぼ完全な状態の抜歯窩が存在します。歯を抜くと、周囲の骨や歯肉の形は大きく変化しますので、インプラントを埋入するポジションは必ずしも抜歯窩と同じとは限りません。むしろ最近では、骨吸収(骨の痩せ)を見越したポジションにあらかじめ埋入するという考え方が主流で、わずかに内側にインプラント埋入することが多くなってきています。

そうなると、非常に薄い骨や斜めの骨にインプラントを固定させなければなりませんので、平らな骨にインプラントを入れるよりも高度な熟練したテクニックが必要になります。そしてその場合、必ずギャップ(隙間)が存在しますので、何らかの骨補填を同時にしなければならなくなります。骨補填を行った場合は、唾液からの感染を防がなければなりません。ついさっきまで歯があったわけですから、歯肉量は確実に不足していますので、これまた様々なテクニックを駆使して唾液の感染防御をしなければならないのです。

このように、「治療に時間がかかる」という欠点を補うための早期インプラント埋入が数多くおこなわれるようになってきた半面、手術時の環境が変わってきているために、組織の変化の理解やより高度なテクニックも要求されるようになってきました。

ダメージの少ない抜歯とは?

抜歯後の歯根

歯質の劣化により割れてしまった歯根

いずれにしても、インプラントを入れる前に必ず抜歯を行わなければなりません。しかもその抜歯は、組織にダメージを与えないようにスムーズに行われなければなりません。ボクシングの試合と一緒で、挫滅量が大きければ大きいほど、術後の晴れや痛みが大きいのはもちろん、骨や歯肉の吸収(痩せ)も大きくなります。

さらに、根の周囲に膿胞といった感染物が長期間存在すると、組織抵抗反応で周囲の骨が硬くなってしまいます。こうなると、抜歯後自然に骨が再生しにくくなりますので、抜歯時にそういった骨硬化のあった場合はその状態を改善し、ある程度自然に骨再生が行われやすい環境を整えてあげるようなことも考えられるようになりました。場合によっては、その時点で骨補填を行ったりすることもあります。

それらを、ソケットプリザベーションと言います。

インプラントを埋入する時期が早くなった分、抜歯を考慮した治療プランを立てなくてはならなくなりました。しかもそれは最も組織変化量の大きな時期になります。そういったことをしっかりと理解せずに、治療期間短縮のためだけにインプラント治療を行うと、しばらく経ってから骨が痩せたり歯肉が退縮したりしてきます。抜歯してからの期間が短ければ短いほど組織変化量が大きいので、それをしっかりと予測した上での埋入ポジションをとることが長期的な成功の秘訣です。
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