意図的にネタバレを行っている点が興味深い作品
■作品名異人たちとの夏 (88)
■監督
大林宣彦
■主演
風間杜夫、片岡鶴太郎
■DVD販売元
SHOCHIKU Co.,Ltd.(SH)(D)
■おすすめの理由
結婚に失敗した中年の脚本家・原田(風間杜夫)が、故郷の浅草で12歳の時に死別した両親(片岡鶴太郎、秋吉久美子)と再会したことから、懐かしくも切ない奇妙な生活が始まります。
原田はまるで怪談「牡丹灯籠」のように死者と接することで精気を失っていくのですが……。
監督大林宣彦、脚色市川森一、原作山田太一による、大人のためのファンタジーホラーです。
原田が最初に父の幽霊と出会うのが浅草演芸場。
バックに流れる音楽は浅草で活躍した喜劇王エノケンこと榎本健一が舞台でよく歌っていた「リオ・リタ」です。
大林監督は「父親役の鶴太郎はエノケンさんのイメージ。だから『リオ・リタ』を意識して使った」と語っています。
その舞台上では北見マキがマジックを行っているのですが、シルクハットからグローブ、アイスクリーム、花札(さすがにすき焼きは出てきませんが……)と、その後の親子にかかわるものが次々に出てきます。
ほかにも、原田と交わる謎の女性(名取裕子)について、プッチーニのオペラ「わたしのお父さん」や前田青邨の絵画「腑分け」などを使って、意図的にネタバレを行っている点が興味深いです。
この映画は、夏の風景、浅草という街が持つ独特の懐かしい雰囲気を映し出した映像、そして俳優たちの妙演が相まって、小説とは違う映画ならではの表現力の素晴らしさを感じさせてくれます。
特に両親との別れのシーンは絶品です。