看護系人材養成の在り方とは
少し前なら、大学の看護学部を卒業することは、看護師と保健師、両方の資格を取得することを意味していました。それが今、多くの大学で保健師の資格取得は選択制になりつつあります。なぜこうした動きになったのか、文部科学省の「大学における看護系人材養成の在り方に関する検討会最終報告」(平成23年3月11日付)を参考に、歴史的なお話も含め解説をしておきましょう。平成4年から急激に増えた看護系大学
看護系大学の誕生は昭和27年といいます。従来の3年課程の看護専門学校でも看護師の資格が取得できたのに、なぜ1年多い、4年課程の大学で同じ資格取得が始まったかというと、常に社会の医療・看護ニーズに対応できる質の高い保健師、助産師、看護師、そして看護学の研究者と教育者を効果的に養成することを目標としていたからです。平成4年に「看護師等の人材確保の促進に関する法律」が施行されると、前年度に11校だった看護系大学の数は急激に増加し、平成22年度には188校になっていました。これだけ増えると看護師国家試験の合格者に占める大卒(学士課程修了者)の割合は2割を超えるまでになっていました。
保健師教育の流れ
こうして保健師資格取得の方法は、看護専門学校等で3年間の看護師養成をしたのち、さらに積み上がる形で養成する、あるいは、看護系大学の学士課程教育のなかで看護師と並行して養成する(統合カリキュラム=看護師と保健師の資格を同時取得)の2つが主流となりました。※他に看護専門学校から大学編入などもあります。
看護系大学はどう変わる?
保健師に興味のない学生も一緒に授業を受ける状態になるため、とくに実習の現場で緊張感が保てなくなるケースが出てきました。これでは真剣に学びたい学生や教える側の先生、実習を受け入れてくれた相手に迷惑がかかってしまいます。
実習先は限られている
看護師の実習先は病院です。大学なら系列の病院もたくさんありますし、看護学部に入ってくる学生のほとんどが看護師を目指しているわけですから、目的意識も緊張感も維持されます。受け入れ側の教育体制も確立され、一挙に30人の学生がやってきても対応できます。一方の保健師実習先は保健所や市町村なので、現場保健師の数が少なく、日常の業務をこなしがら対応するのもひと苦労です。一度に大人数の学生実習を受け入れることは非常に厳しい状態です。実習日数も少ないので、現場を見せるだけで終わるケースもよく聞きます。これでは全体の士気もいまひとつ上がりません。
極端な話、看護師実習は充実したプログラムと数々の体験ができるのに、保健師実習は単に現場の見学をするだけとなり、資格は取ったけれど、実際に何をするのか今ひとつ分からないまま社会に出ることになってしまいます。
※参考までに、保健師専門学校の実習は、大学よりも濃厚で個性的なところが多いです。なかには実習先の市町村に実際に住みながら住民と接する授業をしているところもあります。
私が取材してきた若手保健師たちの多くが、学生の時に学んだ保健師像と実際が違っていたとよく口にするのも、こうした背景があったからです。
次は現在の保健師教育事情について触れます。