『エル・システマ』の衝撃
「彼らは何者? なんでこんな演奏ができるの!?」2008年12月、クラシックの本場ヨーロッパから遠く離れた南米ベネズエラのユース・オーケストラが、同国のまだ27歳の若い指揮者と共に来日し公演を行った。
はちきれんばかりの元気いっぱいパワフルな演奏と高いアンサンブル能力、そして、誰も聴いたことのない新たな目で読まれた楽譜の解釈。それはそれは衝撃的なものだった。そしてアンコール。彼らは演奏中に踊る、立つなど、喜びを爆発させる。会場は思わず立ち上がった観客による万雷の鳴り止まぬ拍手に満ちる――。
未だ語り継がれるクラシックの素敵な事件の一つです。
この伝説の来日公演を率いた指揮者は、現在、世界で最も注目されるグスターボ・ドゥダメル。そしてオーケストラはシモン・ボリバル・ユース・オーケストラ・オブ・ベネズエラ(現:ベネズエラ・シモン・ボリバル交響楽団)。
彼らの秘密を解く鍵は彼らが『エル・システマ』の出身者である、ということ。
そして、この2013年10月、再び『エル・システマ』が来日! また奇跡的な名演が繰り広げられるのでは!?
と期待が膨らみますが、その前に『エル・システマ』とは一体何なのか、知っておきましょう。
『エル・システマ』とは?
『エル・システマ』は、クラシック音楽の世界のみならず教育の現場でも注目される、ベネズエラで行われている音楽教育プログラムのこと。貧困層が犯罪と関わっていく状況を払拭しようと、ベネズエラの経済学者であり音楽家のホセ・アントニオ・アブレウ氏が1975年に生み出したのが『エル・システマ』です。貧困層の子どもに無料で、楽器を貸与し演奏を教えるというもので、子どもたちは演奏を通して生きる喜びを知り、コミュニケーション能力を高め、また社会規範と個性の表現を学ぶことができます。
そして『エル・システマ』が更に全世界的に注目されるようになったのは、出身者の演奏技術の高さがありました。中でも、先述の傑出した指揮者グスターボ・ドゥダメルが輩出したことは大きく、彼が広告塔となり、広く知られるようになったのです。
『エル・システマ』は世界中で取り入れられ、日本においても『エル・システマ・ジャパン』が東日本大震災で被災した相馬の子どもたちを対象に実施しています。
そして、この度、本家本元の『エル・システマ』が再来日を果たすのです!
『エル・システマ・フェスティバル 2013』と題され、ベネズエラ・シモン・ボリバル交響楽団より一世代下の若いエネルギーに満ちたオーケストラ「エル・システマ・ユース・オーケストラ・オブ・カラカス」が初来日し、コンサートを行うほか、シンポジウムやワークショップが行われます。
指揮はエル・システマ出身のディートリヒ・パレーデスと、創設者アブレウ博士の友人である指揮者レオン・ボットスタイン。
アブレウ氏の強い希望により、広島で10月8日(火)に、東京で10月10日(木)、11日(金)、12日(土)に公演が行われます。
エル・システマ・フェスティバル 2013概要
広島公演概要
関連イベント(白寿ホール)
果たして、今回も楽しい事件が起きてしまうのか? その手がかりを探るべく、8日と11日に共演するピアニストであり、先んじてベネズエラに行き『エル・システマ』を視察し、彼らと演奏もしてきたという萩原麻未さん(ジュネーブ国際音楽コンクール<ピアノ部門>日本人初優勝者)に話を伺ってきました!