時代の流れとともに変化する焼肉店

提供された肉を客が自ら焼いて食す。だからこそ焼肉は、ステーキハウスや鉄板焼きに比べて安価で気軽に高級な黒毛和牛を食すことができ、そこが利点の一つでもありました。そんな昔からの焼肉のスタイルも、今では時代と共に多様化し、各焼肉店で個性がないとアンテナの高いお客さんを惹きつける事が出来なくなってきています。要は肉を切って提供するだけの時代は終わりつつあるのです。そこで、新たな焼肉のスタイルとして、都内を中心にここ数年で増えているのが、店主あるいはスタッフが”焼き”のサービスをするということ。今回ご紹介する「虎の穴」は、その先駆けといえる焼肉店です。
ハラミ

ハラミ


通称”おせっかい焼肉”がみせる新しい焼肉の表情

一時は西麻布や中目黒にも店舗がありましたが、今では恵比寿店のみ。ちょうど恵比寿と広尾の中間にあり、そこに店主の辛兄弟がいます。駅からは決して近くないので、自然と客層も決まってくるのか、わりと落ちつきのあるいい客層と言えるのではないでしょうか。

こちらの辛兄弟、提供するホルモンや肉を、いかに昇華させてお客さんの口に届けるか、ということにものすごくプロフェッショナル。最終的な着地点は網の上でも、皿の上でもなく口の中、そこが調理場なのです。だから焼いてくれるだけでなく、食べる時に使用する調味料や薬味の種類、つける量、順番など、最後までしっかり指示が入ります。そして同店ではホルモンをメインに扱いますが、なかでも内臓以外のホルモンの提供の上手さが目に留まります(例えばタンの各部位、ツラミ、コメカミなど)。これらは黒毛和牛の肉と比べて脂の入り具合が圧倒的に少ないので、肉を食す満足感が有りながらも、年齢とともに脂に弱くなって焼肉を敬遠している大人にも楽しめるラインナップ。最高級な肉を仕入れて提供するということよりも、焼き方や薬味にひとひねりもふたひねりも工夫を凝らすことで、単調になりがちで、食材に頼りがちな焼肉に変化や膨らみを感じさせてくれます。
タン下

タン下

例えばタン下(タンスジ)。一般的にタンで人気な部位はタン元(タンの根元)で、タン下はスジが入ってくるのでグレードのさがる部位です。そこを「虎の穴」ではこんな風に提供します。スライスされた塩だれの二枚のタン下を時間差をつけて焼きます。一枚はしっかり焼き、もう一枚はレアに。それを二枚重ねて白ネギと一緒に食します。すると、二枚の重なり合った異なる食感のタン下が、白ネギのアクセントと共に、ふわっと口の中で弾み、楽しく美味しいのです。食材としては二軍選手のタン下が、一気に一軍選手に昇格する瞬間です。むしろ、個人的には食べ飽きている豪華な厚切りタンよりも魅力的に感じさえします。定番メニューでもう一つのお気に入りメニューが、コメカミの串焼きです。串刺しになったサイコロカットのコメカミをじっくり網で焼いて供します。淡白ながらも赤身の肉肉しい味わいを堪能することができて、コメカミ好きにはたまらない一品です。
ツコメカミの串焼き

コメカミの串焼き

タン焼き

タン焼き

この様に、お任せのコースでは変化のある焼肉を楽しむことができます。このお任せコースは一見のお客さんでも注文が可能で、通うごとに内容も少しずつ変わります。また、焼肉店にしては珍しく箸休めに供されるサラダや、サイドメニューも手抜かりなく美味。〆の名物”ダメ人間セット”も初心者には必ず食して欲しい逸品です。

円熟味を帯びた辛兄弟が提供する完成度の高い焼肉は、是非大人に通って食して欲しいもの。長年培った焼肉への理論やこだわりを感じる、ずっと存在していて欲しい焼肉店のひとつです。


同店で特に美味しい体験をした思い出の部位:今では幻のスジレバー、ツラミ、コメカミ、タン下、ギアラ、ハラミスジ

■虎の穴
・住所:東京都渋谷区恵比寿2-11-7-102
・TEL:03-3440-0029
・営業時間:17:00~23:00
・定休日:月曜(祝日の場合は翌平日)
・地図:Yahoo!地図情報
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