福島県会津若松市の奥座敷と言われる東山温泉に、国の登録有形文化財制度の第一号として登録された老舗旅館の「向瀧」があります。江戸時代から続く建物は、少しずつ手を加えて生き続ける和風建築、その美は不思議な雰囲気を醸し出しています。


玄関からつながる魔宮へのエントランス

玄関からつながる魔宮へのエントランス

玄関からつながる魔宮へのエントランス(階段の上が玄関)

玄関から導かれ急な階段を下ると、そこから四方へ、いくつもの階段や長い廊下につながり、湯殿や宴会場の大広間、客室へとつながります。部屋にたどり着くまでにたくさんの仕掛けがあり、まるで道行きを楽しむ旅人です。



創業140年の歴史

温泉宿「向瀧」の外観

温泉宿「向瀧」の外観

140年の歴史を持つ「向瀧」は、東北の奥羽三楽境のひとつと言われる、東山温泉郷の入り口に、堂々と座する赤瓦葺きの入母屋、優雅に曲線を描く千鳥破風の屋根を持つ豪壮な建物になっています。地元の棟梁・本間辰五郎の作と言われています。夏祭りの提灯が飾られた御殿を見て、私の脳裏をよぎったのは、“千と千尋の神隠し”の舞台となった湯屋でした。



「向瀧」の外観

「向瀧」傾斜地に沿った建物

苔むした急斜面に作られた3000坪の見事な回遊式庭園と池を囲むように、コの字に客室は並べられています。傾斜地に這うように幾重にも重なり建てられている連続棟は、明治・大正・昭和と増築され、複雑な構成になっています。まるで5階建の和風建築にみえますが、2階建です。






贅沢な和空間へのタイムスリップ

大工たちの技と遊び心

大工たちの技と遊び心

幾重にも重なり合う建物は、巨大に見えたのですが、実際には24室の小さな老舗温泉旅館です。昭和の大増築の際には、関東からも多数の棟梁が集まり、関東文化と地元会津文化の融合によって完成したと言われています。各室内は数寄屋風で統一されていて、部屋ごとに違う装飾がほどこされています。関東の粋とは違う、地元会津の造作手法は堅実、会津気質は骨太でけっこうハイカラ好み、会津の職人たちの技と遊び心がふんだんに見られるのも、この「向瀧」の特徴です。


階段-1

階段-1

部屋と部屋を結ぶ廊下や階段は、ピカピカに磨かれた欅の無垢で作られているのですが、奥へ奥へと進むと突然にモルタルの小石の洗い出しに変わります。しかも、飛び石のように丸太の切り株が洗い出されています。階段の出隅には角材が使われています。





階段-2

階段-2

たくさんある階段の間違いを防ぐためか、仕様が異なっています。この階段には、六角に切り出された荒削りの丸太が埋めこまれていて、室内とは思えない大胆さです。この迷路の階段に悩まされた私、風呂上がりにのぼせた頭で、部屋にたどり着けず何度も登り降りを繰り返しました。




次のページ「木と紙と土に囲まれた安らぎ空間」に続く