木と紙と土に囲まれた安らぎ空間

通された部屋は、中庭に面して、広い開口部がある昭和10年の大増築によって作られた客室でした。本間8畳、次の間6畳の広めの客室で、欄間にかきつばたを彫り込んだ欄間があるため“かきつの間”と呼ばれていました。凝った細工の手すりや、かきつばたを彫り込んだ欄間、本間には掃き出し窓があり、凝った細工の手すりが付けられています。「東郷平八郎」による書が飾られていました。
かきつの間

かきつの間

幾度となく階段を降りたり上ったり、通されたのがこの“かきつの間”です。客室に足を踏み入れると正に日本旅館、障子のほのかな光に心が和みます。正面の障子は、雪見障子、右の障子を開くと裏庭があります。木と紙と土の囲まれた空間です。


竹柱と小舞の開口部が粋な床の間!

床の間

床の間

床の間に細工された小舞(こまい)と呼ばれる格子状に組んだ窓が素敵です。皮付の葭(よし)を1~4本不揃いに並べ、外を縦、内を横にして格子に組み、ところどころを藤の蔓で巻いてあります。裏の廊下側には障子が組み込まれています。左側には、違い棚ではなく、天袋地袋が造られています。


床柱

床柱

床框は漆塗り、床柱は見たことがない、ごつごつとした肌触りの丸太でした。宿の番頭さんにも調べてもらったのですが、素材は何かわからず、漆をかけてあるのではないかと言うことでした。







かきつばたの欄間

欄間

欄間

欄間は、鴨居から天井に近い長押までの空間に、組子格子、透彫彫刻、障子などをはめ込んだものをいいます。この部屋の“かきつの間”は、この欄間の“かきつばた”の透かし彫りからつけられています。この「向瀧」の各部屋には、素朴な透かし彫りで四季風物の文様を簡素に彫り込んだ“水仙の間”や竹をテーマに造られている“竹の間”などがあります。



わずかな空間の美

引き手-1

引き手-1

 
 

引き手-2

引き手-2

今では凝った引き手は、手に入りにくくなりました。使い込まれた引き手にも、味わいがあります。








床の間の地袋に使われていた小さい引き手です。凝った錺り金物(かざりかなもの)が使われていました。







引き手-3

引き手-3

衣装のための押入についている何年も使い込まれた取手です。頻繁に使用するために、補強の唐紙が張られています。大切に使うための知恵ですが、意匠的にも美しいものです。







和建築の美は棟梁がつくり出す! 大胆な和の美

かきつの間の手摺り

かきつの間の手摺り

“かきつの間”の廊下の掃き出し窓に取り付けられている手摺りです。鳥が羽を広げたような緩やかな曲線が、美しい手摺りです。“向瀧”の渋い解説書には、「手摺りにカーテンを掛けたようなモダンなデザイン」とあり、なるほどと頷きました。

天井-1

天井-1

これは、前室の天井です。複雑な構成で杉板をさお縁で押さえて、その上に丸太で押さえた船底天井に、直角に丸竹を並べ漆喰で押さえるという、雑というか大胆というかおもしろい意匠です。この天井が隣の便所まで続いています。





かきつの間の地窓

かきつの間の地窓

手前の“6畳次の間”には、幾つかの障子があります。こんな所に障子! そっと障子を引いてみると、なんと廊下と階段が覗けるのです。この洗い出しの迷路や階段は、室内の廊下ではなく、通路だったのです。複雑に重なり合う建物をつないでいるのが、この通路。だから木製の階段は建物の内部、モルタルの階段は山の斜面をそのまま削った通路だったのです。



福島の会津に密かに生き続ける和風建築の“向瀧”の温泉旅館の空間美。地元の棟梁と関東の棟梁が腕を競い合った建築の技は、有形文化財の建物として大切に保存されています。一般の住宅から本格的な和風が消えてしまった現在、懐かしさと居心地良さ、そして不思議な雰囲気を醸し出していて、興味が深いものでした。


<DATA>
会津 東山温泉“ 向瀧”


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