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『工場』小山田浩子インタビュー(2ページ目)

「さいしょの1冊」をテーマに話題の本の話を聞きます。第2回のゲストは、小山田浩子さん。初めての単行本『工場』について語っていただきました!

石井 千湖

執筆者:石井 千湖

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謎の穴と梯子

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小山田浩子さん

――不思議なものというと、例えば?

小山田 工場を見ていると、何かわからない変な穴や、どこにいくのかわからない梯子があるんですよ。たぶん調べてみれば通風口とかちゃんとした意味があるでしょうけど、小人や鬼のためにあるんじゃないかと勝手に想像で補填して。現実逃避ですよね。

――そのメモはすぐに小説の形になりましたか?

小山田 最初は形になっていなくて、原稿用紙2~3枚分の断片的な話を書いていく感じでした。一番はじめに書いたのは、コンサートホールの話だったと思います。夫に読ませたら「悪くないね」と言われたので、次々と書いて。たまった断片の中から選んだものをつなげてできあがったのが「工場」なんです。
時系列が前後したり、話者が変わるときに出来事が分断したりするところをテクニックがあるというふうに好意的に書いてくださった方もいたんですけど、本当に申し訳なくて胃が痛くなりました。実はもともと断片だった文章をつないだら自然とそうなっただけで、意図してないんですよ。あるところで時間が飛んでいることにも新人賞の受賞が決まってから編集の方に指摘されて初めて気がつきました。雑誌掲載時にもっとはっきりわかるように書き直したんです。

――話者の切り替えといえば、牛山佳子さんだと思っていたらお兄さんに変わっているところは驚きました。

小山田 はじめは牛山佳子の視点だけで書いていて、途中でコケ博士の古笛よしおを出そうと思って、お兄さんは最後にはめ込みました。

――3人が工場で担当している仕事はどうやって決めたんですか?

小山田 牛山佳子に関しては、徹底的にやりがいがない仕事にしようと思ってシュレッダー班にしました。コピーはまだとったものが出てくるという意味で生産的ですけど、シュレッダーはゴミを作るだけだからしんどいだろうなと。コケ博士は、家に蘚苔類図鑑とかコケの本がいっぱいあるので思いつきました。夫が大学時代にコケを分類するゼミにいたんです。牛山さんのお兄さんは私自身が編プロにいたのと、工場で働いていたときマニュアルが原稿通りに印刷されているかどうかチェックする仕事をしていたので。校正もしんどい仕事なんですよね。一言一句、内容に気を取られずに、ただ文字として見ないと誤字脱字は発見できない。どんなにおもしろい文章でも楽しむことが決して許されない仕事といいますか。

――古笛さんは正社員、牛山佳子さんは契約社員で、牛山さんの兄は派遣社員。それぞれ立場が違いますよね。

小山田 私は正社員と派遣とフリーターを経験していますが、同じ職場にいても正社員と非正規雇用の人では絶対に見ているものがちがうと思うんですよ。例えば管理職の男の人に多いんですけど、パートタイムで働いている人を一人ひとりの名前じゃなくてまとめて「パートさん」というふうに見るんですね。女の人のほうが立場のちがいには敏感かもしれません。育児休暇がとれる正社員に対して、子供がいるパートの人が格差を感じたり……。
 

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