自社株買いが1株価値を上昇させる!
3つめの「1株利益(EPS)の上昇効果」とは、株式数が減少することにより1株利益が上昇し、ひいては1株価値が増加する効果です。モデルケースで見てみましょう。総資産150円、負債50円、純資産100円、当期純利益10円、発行済株式数10株、自己株式数0株のA社があったとします。
1株利益(EPS)は、いくらでしょうか?
『EPS = 当期純利益10円 ÷ 株式数10株 = 1円/株』
となります。
『株式数 = 発行済株式数10 - 自己株式数0 = 10株』
です。
ここで、会社が自社株買いを実施したとしましょう。1株20円での取得です。会社から資産が20円減少します。また、自社株買いは純資産の払戻と考えられますので、純資産も20円減少します。
結果として、総資産130円、負債50円、純資産80円、当期純利益10円、発行済株式数10株、自己株式数1株となります。
【図 EPSの変動】
自社株買いを行っただけなので負債は増減しません。また、自社株買いを実施しても、しなくても、事業内容や収益力に変化はありませんので当期純利益も増減しません。
このとき、1株利益(EPS)はどうなるでしょうか?
『EPS = 当期純利益10円 ÷ 株式数9株 = 1.11円/株』
となります。
※株式数 = 発行済株式数10株 - 自己株式数1株 = 9株
自社株買いにより、1株利益(EPS)が1円から1.11円に11%も増加したことがわかります。ひいては、1株価値が増加すると期待できます。
このとき注意したいのが、自己資本比率です。
自社株買いの前は、
『自己資本比率 = 純資産100 ÷ 総資産150 = 66.7%』
でした。
ところが自社株買いの後は、
『自己資本比率 = 純資産80 ÷ 総資産130 = 61.5%』
となります。
自社株買いにより、財務体質が悪化していることがわかります。ですから、自社株買いは無尽蔵にやってよいものではなく、資金繰りや残される株主の利益にも配慮した規模・株価で実施しなければならないのです。
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