10年で権利が消える! 債権の消滅時効って何?
人が人に対して何かを請求する権利を、「債権」といいます。過払い金の返還請求権も、お金の借主が消費者金融会社に対して、過払い金を返せ!と請求する権利ですから、債権にあたります。そして、民法には、債権を持っていたとしても、これを使わない状態が10年間続くと、その債権は消滅してしまい、もはや請求できなくなるという規定があります。これを「消滅時効」といいます。過払い金の返還を求める権利も債権である以上、10年で消滅時効となり、それ以降は請求できなくなってしまいます。
では、なぜ消滅時効などというルールが存在するのでしょうか。それは、権利を使わない状態が長く続いたという事実は法律で守るべき価値があり、他方で、積極的に権利を使わなかった怠け者を守ってあげる必要はない、という考えで民法が作られたからです。
たとえ過払い金返還請求権を持っている借主であっても、それに甘んじてグズグズしていては損をするという仕組みになっているのです。
消滅時効10年のカウントダウン、起算日はいつ?
過払い金返還請求権が10年で消滅するとはいうものの、一体どの時点から10年なのか、という点が、かつては論争となっていました。しかし、今は判例(裁判所の判断の先例)によって解決されており、「最終の返済日から」10年と解釈されています。借入日や、初回の返済日が10年以上前であったとしても、最終返済日から10年経っていなければ、過払い金返還請求はできることになります。10年経っても、あきらめるのはまだ早い
もっとも、完済日から10年以上経ってしまった場合でも、取り戻せる可能性はゼロではありません。取り立てのされ方がひどかった場合などには、貸金業者からの請求を「不法行為」ととらえて請求すればよいのです。不法行為とは、違法な行為によって人に損害を与えた場合に、その被害者が加害者に対して損害賠償を求めることができる、というルールです。
例えば、交通事故の被害者が治療費を請求する場合や、不倫をされた人が慰謝料を請求する場合がこれに当たります。借金の悪質な取り立て行為も、この不法行為と見る余地があるのです。
「不法行為」の場合、あと3年の猶予期間が発生する
不法行為となると、消滅時効について、特別なルールが適用されます。不法行為を理由とする損害賠償請求権は、通常の10年ではなく、損害を知った時から3年で消滅時効することになっています。この「損害を知った時」を、取引履歴の開示を受けた時と考えると、開示から3年以内であれば、完済から10年以上経っていても、損害賠償金として過払い金を取り戻すことができるのです。
不法行為となるかどうかの判断基準について、最高裁判所は、暴行や脅迫を伴う請求や、法的根拠がないことを知りつつあえてする請求など、「社会通念に照らして著しく相当性を欠く」ならば該当する、としています。これに該当するかどうかはケースバイケースなので、必ずこのやり方で請求できるわけではありません。ですが、この理屈を認めている判決もあるので、完済から10年経っていても、あきらめるのはまだ早い、と言えるでしょう。
「取引の分断」には要注意!
新しい問題として議論されているのは、「取引の分断」があった場合の消滅時効の考え方です。取引の分断とは、例えば、A社から平成2年に借り入れて平成10年に一度は完済したものの、再びA社から平成12年に借り入れて平成20年に完済した、というように、途中で一度完済している場合のことをいいます。この場合、前の取引と後の取引とを合わせて1つの契約だと考えると、そのすべての返済が終わった時(上の例では平成20年)から時効を数え始めることになるので、平成30年が来るまではすべての過払い金の返還請求ができます。
ところが、前の取引と後の取引とが別々の2つの契約だと考えると、前の取引についてはその返済が終わった時(上の例では平成10年)から時効を数え始めることになるため、平成20年が来てしまうと、前の取引から生じた過払い金に関しては、返還請求ができなくなってしまうのです。
では、前後の取引が1つの契約なのか、2つの別々の契約なのかはどう決まるのでしょうか? この点についての裁判所の判断は、前後の取引の間隔の長さ、両取引の内容、条件、経緯等を考慮して、事案ごとに考えられる傾向にあるようです。間隔が短かったり、両取引の内容や条件が同一であれば、1つの契約と判断される可能性が高いでしょう。
いかがでしたでしょうか。利息を払い過ぎたかも? という心当たりのある方は、消滅時効で権利が消えてしまう前に、いち早くアクションを起こしましょう。