過酷な環境でのモノ作り
ミッツ・カイダ氏の作ったこの「椅子」は、座る人にとってより快適になるよう、背もたれの角度などが計算され、まさに「人間工学的」視点で製作されています。この環境下で、ですよ。木材の切れ端を使って製作された椅子は、収容所から出た後も、彼のリビングルームに置かれたとのことです。
ヤシの葉とくずの木を使用し、装飾を施した作者不明のテーブルはどんな思いで作成したのでしょうか?
収容所の日系アメリカ人が乏しい道具と材料でつくった質素な生活用具の中にも、装飾や素材加工を工夫したものが展示されています。
「どうやって、どんな道具をつかって、何でできているのか?」と目を見張るものばかりです。
螺鈿細工のような抽き出しは、まさに「どうやってつくったの?」
とても美しい抽き出しです。
自転車のポークや壊れたノコギリの金属スクラップを再生させてつくったナイフは、使った人々の痕跡が美しい形状を作り出しています。
土中深くから掘り出した貝殻(砂漠のもとは海)などで作った装身具はとても繊細で緻密。まさに「どうやって?何をつかって?。。。」
ため息まじりでつぶやいてしまう程の完成度のある工芸品です。
このような緻密な工芸品を見ていると人はどんな過酷な環境なの中でも、いやそんな環境だからこそ「美」を求め、美の中に「喜びと希望」を見いだすものだなぁ、と痛感しました。
故国の文化の尊さ
【日本とアメリカは交戦状態で、収容所からでることのできない人たちにとっては、再び故郷日本に帰ることは絶望的だったかもしれません。しかし、日本移民はもちろん日系アメリカ人も故国日本の文化と伝統は忘れることはありませんでした。厳しい生活の中でも自分たちのルーツを忘れない心意気と尊厳が伝わってきます。】(引用:ガイドブック,10P)収容者は小さな手荷物以外は何も持ち込みができませんでした。自宅の仏壇すら持参することが出来なかったのです。そのため自ら仏壇を製作し、家族で朝夕、手を合わせ「祈り」を捧げたのです。
この展覧会を見て昨年の大震災を思いました。
どんなに高度な文明社会でも人は脆く、ひ弱なものだと思い知らされました。それ以上に過酷な環境下で乏しい道具や材料で「人として生きる」ために作り出した作品は、今日の私たちが『忘れかけているアイデンティテーと尊厳』を伝えているように思えます。
そして、大量生産、大量消費で邁進してきたプロダクトデザインに対して、改めて「モノづくりの原点」を見いだす必見の展覧会です。
■尊厳の芸術展 データ
東京展
・会期:2012 11/3~12/9 10:00~17:00(入館は16:30まで)
・休館日:月曜日
・会場:東京芸術大学大学美術館
・拝観料:無料
福島展
・会期:2013 2/9~3/11
・会場:こむこむ館
仙台展
・会期:2013 5/5~5/18
・会場:せんだいメディアパーク
沖縄展
・会期:2013 6/1~6/30
・会場:浦添美術館
広島展
・会期:2013 7/20~9/1
・会場:広島県立美術館
……………………………………………………………………………………………■
今回の関連リンク
→石川 尚の最新記事
【石川 尚の椅子のある風景】
『ナッシュマルクト、食材と装飾、椅子のある風景』
→東京芸術大学大学美術館
・暮らしのデザインメールマガジン「ファニマガ」登録(無料)はこちらから!
★ガイドのエピソードが満載のインタビューはこちらから!
☆掲載の記事・写真・イラストなど、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます。
Copyright(c) 2012 イシカワデザイン事務所 (ISHIKAWA DESIGN OFFICE) All rights reserved