■西洋と日本、社会を冷静に見つめる目『戦争画RETURNS』シリーズ
あっと驚くもの、楽しい発想、目線を、類まれなる技術で作品として、元ネタを知らない人も感動するまでにつくり上げる彼のワザは、連作『戦争画RETURNS』にも通じています。
戦争画とは、広義ではその名のとおり戦争を題材する絵画。そして狭義では、第二次世界大戦中、軍部が戦意高揚のために画家に描かせた絵画のことを指します。
藤田嗣治の『アッツ島玉砕』をはじめ、多くの戦争画は終戦後にGHQに接収され、その後、東京国立近代美術館に無期限貸与という形で収蔵されている状態です。
終戦から時間が経ち、戦争画については少しずつ研究や展示がされつつある状況ではありますが、近隣諸国への配慮や、描いた画家本人たちの立場や気持ち(実際に藤田嗣治はいろいろ悩んでしまったようで、戦後フランスへ帰化してしまった)など大人の事情がうずまき、その扱いは現在に至るまで若干タブー視されてきました。彼はその「戦争画」について、『紐育空爆之図』をはじめ、数々の連作でこの問題について取り組んでいます。
『紐育空爆之図(にゅうようくくうばくのず)(戦争画RETURNS)』 1996年 六曲一隻屏風/日本経済新聞、ホログラムペーパーにプリントアウトしたCGを白黒コピー、チャコールペン、水彩絵具、アクリル絵具、油性マーカー、修正液、鉛筆、襖、蝶番、その他 174x382cm 零戦CG制作:松橋睦生 高橋コレクション蔵、東京 Courtesy: Mizuma Art Gallery
『紐育空爆之図』は、狩野永徳が描いた『洛中洛外図屏風』(米沢市上杉博物館に収蔵)の舞台である京都と同じく、碁盤の目状の街であるマンハッタン上空に、ゼロ戦が∞状に飛び回る構図の作品。そのゼロ戦は、日本画家の加山又造の『千羽鶴』(東京国立近代美術館に収蔵)を意識したもので、ホログラム状に光かがやいています。ちなみに、制作当時暮らしていた家の襖の裏に描かれているのだそう。
1作品ごとに全く表現方法が異なる『戦争画RETURNS』シリーズを並べて展示。左の作品は、かつて第二次世界大戦で戦場となったアジア各地の旅行パンフレットを並べてキャンバスにしたもの。 「会田誠展 天才でごめんなさい」展示風景 森美術館 2012/11/17-2013/02/31 Courtesy:Mizuma Art Gallery
日本の美を徹底的に意識しながら、アメリカやアジア、日本の関係を冷静に見つめ、問いかける作品は、その美しさ、かっこよさ、ダイナミックさで多くの人々を魅了させるとともに、驚かせ、考えさせ、感情をゆさぶるものが多いのです。
これだけの説明では、会田誠とは「シニカルな社会派作品」を描く作家、という印象を受けてしまうもの。けれども、彼の作品が持つ魅力はこれだけではないのです。