アートが好きな人、興味がある方ならとにかく楽しく、そうでない方もアートって楽しいかも! と感じさせてくれる美術展、『会田誠展:天才でごめんなさい』が森美術館で開催されています。
その名のとおり、会田誠の最大級の回顧展(特定のアーティストのキャリア全体を取り上げる展覧会)であるこの展覧会、サブタイトルからして驚きですが、内容は確かに納得なのです。天才で芸術家というと、ダ・ヴィンチやピカソを連想しがちですが、彼の“天才”性は全く別のところに感じられるのです。
INDEX
(1) 会田誠ってどういう人?
(2) 西洋と日本、社会を冷静に見つめる目『戦争画RETURNS』
(3) かわいさも、下品も同居する世界
■会田誠ってどういう人?
会田誠は昭和40年(1965年)生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科を修了し、作家活動を開始。卓越した画力と発想力をもって、ときにはシニカル、時にはエロティック、ときには下品、ときにはおバカな作風で注目を集めてきました。
たとえば、ツインテールの少女の分け目が、田んぼの真ん中に走るあぜ道と一体化した構図の『あぜ道』(1991年)という作品は、会田誠の初期の代表作の一つ。
ひと目見たときは、とてもユーモラスな絵!という印象を受け、その後、じっくり見てみると、少女の髪の毛のツヤ、稲の緑の美しさ、遠くに広がる山々など、まじめに伝統的な日本画の技法で描写されていることに気づき、その緻密さに驚かされます。
そして、この絵。美術を好きな方なら、なおさら楽しい点がもう一つ。それは、日本画家の東山魁夷の代表作で、重要文化財にも指定されている『道』(東京国立近代美術館に収蔵 )という作品を下敷きにしているということ。知っていると、思わずニヤリとしてしまう仕掛けが多いのです。
3メートルx7メートルもの大作である『灰色の山』もそのひとつ。この山を構成するのは、おびただしい数のサラリーマンの死体!現代の企業戦士の働きざまを皮肉った作品、という見方ができます。しかし、遠目から見ると、南宋の山水画(中国で発達した、山や川をモチーフにした絵のこと)に見えてくるから不思議です。
一枚の絵で、さまざまな角度から楽しめる作品が多いのが、会田誠の作品の面白さのひとつです。