そもそも高額療養費制度とは
私たちは国民健康保険や社会保険などの公的健康保険に加入しており、病気やケガなどで医療を受けた場合は実際の医療費の3割を負担することになっています。とはいえ、普通の治療や療養を受けた場合でも、入院期間が長くなったりするなどして医療費が高額になり、家計を圧迫するケースもあり得ない話ではありません。そのような場合のために、公的保険には「高額療養費制度」というありがたいシステムが設けられています。高額療養費制度は、1カ月の自己負担額が、その人の所得によって決められた一定の限度額を超えた場合、その超えた部分を払い戻しする制度です。
ただし、高額療養費制度で戻るのは、公的健康保険から支払われた医療費のみで、保険給付の対象とならない食費、差額ベッド代、高度先進医療費などは含まれません。この高額療養費制度、かつてはいったん全額(自己負担額)を支払い、後日超過分が払い戻される方式でしたが、現在は、事前に「認定証」等の交付手続きをしておけば、認定証等の提示により窓口での支払いは自己負担限度額のみになっています。
高額療養費が適用されない人にメリット大
今回の高額療養費の改正ですが、新聞報道(日本経済新聞、平成24年11月15日付)だと筆者は改正されても報道ほどの負担減にはならないのではないか?と思ったのですが、厚生労働省のHP(「高額療養費の見直しについて」、平成24年11月16日厚生労働保険局)に本来の趣旨が記載されていたので納得出来ました。ポイントは高額療養費に達しない自己負担額を払っている人と、高額療養費が適用される人の自己負担額の格差を解消させるものです。たとえば、年間の医療費が280万円の一般所得者に該当するAさん、Bさんがいたとします。Aさんの高額療養費適用前の1月~3月の自己負担額が月約10万円(医療費約33万円)、4月~12月の自己負担額が月6万円(医療費20万円)だったとすると、Aさんは高額療養費の適用があるため、年間の自己負担額の合計は約64万円(=80100円×3カ月+44400円×9カ月+当初3カ月の医療費1%)になります。
一方、Bさんは1月~12月まで毎月約7万円(医療費約23万円)だったとすると、Bさんには高額療養費の適用がないため、年間の自己負担額の合計は約84万円(=約7万円×12カ月)となり、同じ年間医療費負担にもかかわらず年間約20万円もの差が発生してしまいます。この負担額のアンバランスを是正するため、年間の自己負担額に上限(このケースだと約64万円)を設けようとしているわけです。
年収約300万円以下の中低所得者に配慮
今回の改正案では、一般所得者(年収約210万円~約790万円)の区分を、年収約300万円超~約790万円、年収約300万円以下に分けて、年収約300万円以下の中低所得者に配慮することになっています。高額療養費制度の改正は、2014年(平成26年)度の消費税の引き上げに合わせて行われる予定ですが、すべての所得層に年間の自己負担額に上限を設け、また、年収約300万円以下という区分を設けることで約100億円(公費約20億円)が必要となると試算されています。負担は衡機高齢者健康保険を除く人に求めるようなので、実際の導入には紆余曲折があると思われます。
導入が前提と考えれば、自己負担額に上限が設けられるのですから、自由診療を除けば医療費が想像もつかない高額になることは無くなるはずです。つまり、医療保険で高額の保障を確保するニーズも低下して行くと予想されます。