新築より大変なリフォームの世界
近年、リフォーム(以下、特に断りがない場合はリノベーションも含む)の分野でハウスメーカー系の企業が有力な存在となりつつあります。では、それはなぜなのでしょうか。また、彼らに工事を依頼することで、私たち消費者にとってどのようなメリットがあるのでしょうか。この記事では、リフォーム、リノベーションについての基本的な事項とともに、ハウスメーカー系によるリフォームの特徴について確認します。まず、リフォームそのものについて理解しておきましょう。その工事の規模は様々ですが、多くの方々の認識として、「工事金額が新築住宅(建て替えを含む)に比べ安価」というのがあるようです。しかし、ここに大きな誤解を生む要素があるように思います。
リフォーム中の住宅の様子。築30年~40年ほどの住宅が劣化や家族のライフスタイルの変化に伴い、このような大規模リフォームを行う事例が増えてきた(クリックすると拡大します)
というのは、価格が安価だからといって、その大変さは施主にとっても依頼先にとってもリフォームの方が数段上だということです。「リフォームは新築より手軽」だと思われているかもしれませんが、そうした認識は今後、捨てていただきたいと思います。
というのも、対象となる住宅にどんな不具合があるのかわかりづらいという問題があるからです。例えば、壁を取り除いてみた場合、深刻なシロアリの被害が判明し、当初予定していた工事金額を大きく上回ってしまう、なんてことも想定しておくべきです。
住宅の外回りや内装をみるだけではわからない問題点もあるわけです。そのため、国は近年、インスペクター制度の普及を推進しています。これは、リフォーム工事や中古住宅の売買の際に建物の状態がどのようなものなのか、チェックできるようにする仕組みです。
ある築50年ほどたった建物の柱の様子。シロアリ被害に遭い、柱がだいぶん痛んでいる。これでは耐震強度に問題があるだろう(クリックすると拡大します)
一般的な中古住宅の場合、リフォームを施す住宅の設計図が残っていないというケースもよく見られます。この状況ではリフォームの工事事業者が必要な耐力壁や柱を取り去ってしまい、結果的に住宅の構造上の強度を損なってしまうということもあり得ます。
新築以上に慎重さが求められる依頼先選び
リフォームの分野は業者が玉石混淆な世界。中には、悪徳リフォーム会社や耐震性などにあまり詳しくない事業者も存在しないとは限りません。つまり、業者選びが新築以上に難しいのがリフォームの世界なのです。これは、リフォーム分野が新築に比べ新規に事業に参入しやすいからで、中には元々、住宅事業とはあまり関わりの深くなかった人たちも存在し、結果的にタチの悪い悪質リフォーム業者が混じってしまうわけです。
ただ、かねてからの悪徳業者による事件の発生を受け、制度の見直しも含め、ずいぶんと浄化が進んできました。優良なリフォーム会社が集まる団体ができ、信用やイメージの回復に努めていることを指摘しておきます。
耐震補強などの安全性や間取りを含めたデザイン性、省エネ性などは、リフォーム会社によって能力の差が大きく出やすい、つまり得意不得意がある分野でもあること、その結果、施工品質や精度の面で非常にバラツキが出やすいことも特徴の一つです。
現在は腕の良い大工さんや職人さんが不足している状況だ。その影響は、施工単価が安く手間も多いリフォームやリノベーションの分野で最も顕著に表れるやすいかもしれない(クリックすると拡大します)
ですから、例えば施工実績などを見せてもらい、良い業者かどうかを慎重に判断することも求められます。特に現在は大工さんや職人さんが不足している状況ですから、実際に施工を担当する人の質も見極めたいものです。要は施工力の部分にも注目すべきなのです。
そもそも、リフォーム工事は新築工事と比べて工事の規模が小さく、そのため収益性が低いため、様々なところで無理が発生しやすいという側面もあります。例えばそれは、施工の品質や精度であったり、工事を行う人たちの態度というかたちで表れてきます。
中でも、工事は施主がリフォームを施す住宅に住みながら行うケースも多いため、作業者たちの様子がよく見えますし、それは良くも悪くも施主にとって様々な気分の変化をもたらします。作業する人たちの態度次第で、気分を害したりするケースもあるわけです。
いずれにせよ、訪問による営業でリフォーム工事を誘う業者に依頼することは、決してお勧めできません。失敗するケースは非常に高いと思われますから。その点だけは強く指摘しておきたいと思います。
ハウスメーカー系リフォームはなぜ成長してきたのか
以上をご理解いただいた上で、ハウスメーカーによるリフォームについて概要を紹介します。近年、彼らはリフォーム事業に相当な力を入れていますが、その背景には今後縮小が予想される住宅産業の中で、新たな収益源を確保するという狙いがあります。とはいっても、リフォーム事業というのは新築に比べて工事の規模が小さく、そのため収益が少ないという特徴がありますから、事業強化の当初はなかなか儲けがでず苦労していましたた。ところがずいぶんと状況が変わり、安定的に収益をあげる企業も出てきました。
新築の地震対策の技術を生かした事例。写真は住友林業ホームテックによる古民家向けの制震ダンパー(クリックすると拡大します)
元々、ハウスメーカーは過去に供給した住宅が膨大にあるため、リフォーム工事の主要な対象は主それぞれの企業が建てた住宅としてきました。それが大規模なリフォーム、つまりリノベーションを必要とする時期となってきたのが第一の理由です。
また、顧客を募る際に必要な広告費など営業経費が少なくすみ、リフォーム工事に必要な資材や設備は、新築工事分と合わせて大量購入できコストダウンを図れるという強みを持っています。工事の数が増えることで、収益性が増したというのが第二の理由です。
このほかに近年、自社供給した住宅以外(マンションや非住宅)にも対象を広げていることも、ハウスメーカーのリフォーム事業が安定的に成長している要因の一つでもあります。ここでは、新築工事で培ってきた設計力や技術力、デザイン力を反映できることも強みとなっています。
このほか、リフォーム専門会社のように耐震補強や水回り、さらにはマンションリフォームなどバリエーション豊かなパック商品を提供して、わかりやすい価格で事業を行うケースも目立っています。
リフォームに新築住宅の最新技術やノウハウを反映!
ところで、ハウスメーカー系リフォーム事業拡大の要因の一つに、耐震補強や断熱性・省エネ性向上、間取りの変更を伴うリフォーム、つまりリノベーションが増加していることを既に紹介しました。実はそれはハウスメーカー系にとどまらず、全体の傾向でもあります。そして、この傾向は中古住宅市場の拡大もあり、今後も継続するものと考えられています。その中で、ハウスメーカー系のリフォームのノウハウや技術は私たち消費者にとって魅力あるものとなるはずです。
あるハウスメーカーの新築向けモデルハウスの様子。リフォーム、リノベーションを希望する人も、住宅展示場に行って最新の間取りや設備、素材などを確認することで、より良い住空間の実現につなげられるはずだ(クリックすると拡大します)
というのも、リフォーム、あるいはリノベーションは建物の劣化や設備の老朽化だけでなく、居住者のライフスタイルの変化がキッカケで行おうとするものであり、ハウスメーカー系のリフォーム会社はそのノウハウに大変長けているといえるからです。
施主のライフスタイルの変化に対応するノウハウは大変重要です。うまく対応できないと、さらなるライフスタイル変化、例えば身体能力の低下や家族構成の変化があった時、施主はもう一度リフォーム、リノベーションを必要とするケースもありえます。
そうならないためには、先のことをしっかりと考慮した質の高いリフォーム、リノベーション工事が必要となるわけで、ハウスメーカー系ではその事例がたくさんあるわけです。というのは、彼らの新築住宅向けモデルハウスに行けば私たち消費者は数多くの事例に触れられるからです。
省エネ化(環境対策)、高齢化対応などリノベーションのメインメニューのほか、外構も含めた最新の暮らしを改善する事例をハウスメーカー系なら、膨大な中で確認できるのです。例えば、高齢化対応については、単なるバリアフリーだけでなく、様々なアイデアをハウスメーカー系は蓄積しています。
建て替えか、リフォームか、悩んでいる人も多いはずだ。そんな人にもハウスメーカー系のリフォーム会社に相談すると、良いアドバイスが得られるだろう(クリックすると拡大します)
リノベーションと建て替えのどちらかで悩んでいる方にも、ハウスメーカー系のリフォーム会社の検討をお勧めします。元々が新築に強い会社ばかりですから、どちらの方がメリットがあるのか、これも具体的な事例を示してもらいながら検討できるはずです。
前述したように、リノベーションと建て替えで費用が同じケースもあるわけです。それなら建て替えた方が良いと考えられます。そのようなことも、費用だけでなくライフスタイルも含めてアドバイスを得られるでしょう。
このほか、ハウスメーカー系はリフォーム専業系に比べ規模が大きく、信用力があることも指摘できます。施工力についても、新築住宅を担当する人が関わることが多く、そのため施工精度の点でもある程度の高いレベルを期待できそうです。