ヒューマンリプロダクションに掲載された論文の内容についてお話し頂けますか?
IFCEでは、子宮内膜ポリープの有無がひとつのポイントになります。反復着床不全の患者さんに子宮鏡を行うと、高い割合でポリープが見つかるためです。ポリープの有無、そのタイプによって治療方針を選択することが肝要だと考えております。当院では、子宮内膜ポリープを3種類に区別しており、それぞれ以下のように治療を行なっています。
1. 超音波や子宮卵管造影、ソノヒステログラムなど子宮鏡以前の検査で、存在が推定できる「子宮内膜マクロポリープ」→「ポリープ切除術」
2.子宮鏡での注意深い観察により初めて発見が可能な小型の「子宮内膜マイクロポリープ」→多発性であることが多く、小さすぎて切除不能。慢性子宮内膜炎の合併が多く(約6割、後述)、このようなケースには抗生剤での治療が有効
3.いずれのタイプのポリープもない場合→「子宮内膜生検」
各治療後の胚移植成績は改善し、マクロポリープ、マイクロポリープ、無ポリープ群で同等であることを、論文報告しました (Kitaya K, et al., Human Reproduction, in press, 2012: doi: 10.1093/humrep/des323) 。
慢性子宮内膜炎についてお話し頂けますか?
慢性子宮内膜炎は、反復着床不全の患者さんの約3割に見られます。通常は子宮内膜には見られない白血球の一種「形質細胞」による炎症で、基底層と呼ばれる「月経の際に剥がれない子宮内膜の深い部分」にまで炎症が及ぶために、慢性化すると考えられています。診断が難しい病態でしたが、特殊染色法で見つけることが容易になりました(Kitaya K, et al., Modern Pathology 2010:23;1136-1146.)。
培養室の様子です。
微生物感染がおもな原因で、抗生物質による治療が有効です。これまでに当院で98%以上の方が治癒しています。また先ほどの話のように治療後の胚移植成績が向上することが明らかになってきました。
どんな細菌が見つかるのですか?
大腸菌、連鎖球菌、腸球菌、ブドウ球菌など膣や外陰部によく見られる菌が見つかることが多いです。特定の菌がいるという印象はありません。またクラミジアや淋菌など卵管炎の原因となる菌はほとんど検出されません。抗菌剤による治療でこれらがほとんど良くなるというのは福音ですね。
慢性子宮内膜炎を治療することによって妊娠成績が上がるという報告は、世界でも初めてのものだと思います。子宮内は自浄作用で細菌があまりいないように思われていましたが、月経血が子宮・卵管を逆流することはすでに知られています。膣や外陰部の菌がこれを利用して、子宮の内側へ侵入することは十分に考えられます。そのなかに子宮の中で妊娠に悪影響を及ぼしている場合があると思います。
最後にこれだけは伝えておきたい内容はありますか?
はい、当院では薄い子宮内膜に対する顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)製剤の子宮内投与やヒト絨毛性ゴナドトロピン(HCG) の子宮内投与による妊娠率改善の治療も行っております。また、胚移植技術にもこだわりを持って研究、治療を推進しております。これらの詳細に関しては日を改めて解説する機会をください。
まとめ
今回は子宮内膜環境をどのように治療し、ケアするのかを科学されている北宅先生の話にとても興味を惹かれました。最近は卵子の話題が多く出てきております。もちろん最も重要な項目ではありますが、だからといって子宮内膜をおろそかにしてよいという訳ではないと思っていたので、私としてはタイムリーな話題でした。
この場をお借りし、インタビューに応じて頂いた北宅先生に厚く御礼申しあげます。