日本古来からある食材を使った料理だからこその良さが感じられる作品
江戸時代の女料理人のお話です。主人公の澪は数々の困難を乗り越え料理人として身を立てています。彼女が腕を振るう「つる屋」は今でいう定食屋のようなところでしょうか。当時の職人からお武家さんまでが気軽に通えるお店です。お客さんの懐具合も考え、安く手に入る身近な食材を使った数々の料理はどれも美味しそうです。江戸時代のお話なので、肉料理はありません。マヨネーズやケチャップなども当然ですがありません。日本古来からある食材を使った料理だからこその良さが文体からも感じられます。今のように一年中手に入る食材が少ない代わりに季節を感じる食材を丁寧に下ごしらえして調理してゆく様が描かれています。たとえば春には蕗ご飯。蕗はたっぷりの塩で板摺りしたのち湯にはなち、さっと湯がいて冷水にさらします。長さをそろえて切って塩と酒を加え炊き上げます。ふんわり炊き上がったほろ苦い蕗ご飯が想像できます。
澪が料理をしているとそれを見つめる店主ほか店の面々が「ごくり」とつばをのむシーンがありますが、こちらも「ごくり」となってしまいます。店主種市が味見をした際の「こいつはいけねぇよぅ」の一言が滅法美味しいことのサインです。味がまずくていけないのではなくて、美味しすぎていけないというのです。現在の美味しいときに「やばい」というのとどこか似ています。
一部の献立は巻末にレシピがあり、自分でも作ることができます。でも澪さんの手で作られた料理をぜひ食べてみたいものだと、読むたびそういう気持ちになります。シリーズで色々出ている中でいちばん食べてみたいのは「寒鰆の昆布締め」です。
■「みをつくし料理帖」シリーズ
著者:高田郁
版元:角川春樹事務所
購入可能場所:全国の書店やウェブショップ
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