痛み・疼痛/手術の流れ

麻酔科医解説!全身麻酔後の安全はどう保たれているか

全身麻酔のリスクを心配される方は多いもの。2万人超の臨床麻酔実績を持つペインクリニック医として、全身麻酔後の安全管理について解説します。マスクによる人工呼吸や気管内挿管、さまざまなモニターをつけたチェックはどのように行っているのか、また、手術後の喉の違和感や、 全身麻酔開始後15分間に行われる麻酔手技について、理解を深めてください。

富永 喜代

執筆者:富永 喜代

医師 / 痛みの治療・麻酔ガイド

手術室では何が起きているの? 全身麻酔薬投与後の15分間

手術室

全身麻酔薬は、点滴から投与されます。薬が体に入ると、数十秒で意識はなくなり、呼吸が止まります

全身麻酔で眠った後、手術室の中で何が行われているのでしょうか? 全身麻酔で眠った後、マスクによる人工呼吸や口から喉に管を入れる気管内挿管が行われます。全身麻酔開始後15分間に行われる麻酔手技について、2万人超の臨床麻酔実績を持つペインクリニック医として詳しく解説していきます。

脈拍や血圧、酸素濃度などの確認後、全身麻酔は開始されます

全身麻酔をかける前に、患者さんの体の状態を知る指標として、心電図、体内の酸素状態を測るパルスオキシメーター、血圧計などのモニターが装着されます。これら全てのモニターの数値を確認し、安全性を確保した後、全身麻酔は開始されます。

全身麻酔は、
・意識がないこと
・痛みを感じないこと
・体が動かないこと
が基本です。

成人の場合、全身麻酔は、点滴から体に投与する静脈麻酔で意識を取り、筋肉弛緩薬(きんにくしかんやく)で体の筋肉の動きを止めます。体の筋肉が止まると、同時に患者さんの呼吸も止まります。麻酔科医は、低酸素を防ぐため、患者さんの呼吸の代わりに人工呼吸を開始します。

フェイスマスク人工呼吸の安定後、気管内挿管に移行します

気管内挿管、麻酔科医、人工呼吸、喉頭鏡

患者さんの息がとまった状態で行われる気管内挿管。麻酔科医の緊張はピークを迎えます

麻酔開始時の人工呼吸は、フェイスマスクという鼻と口を覆う柔らかいマスクで行います。マスクによる人工呼吸により、患者さんの酸素状態が安定したことを確認した後、麻酔科医は気管内挿管(きかんないそうかん)を行います。気管内挿管とは、口からのど、気管から肺に向けて、酸素を送る管を挿入する医療行為です。酸素を送る管は気管内挿管チューブと呼ばれ、新生児から成人まで、年齢や体格に応じて様々な太さや長さのサイズがあります。気管内挿管は、通常は口から肺に向かって挿入しますが、手術によっては鼻からのどを通して気管に入れる場合や、のどに開けた気管切開の穴から入れる場合もあります。

気管内挿管チューブの太さは、新生児で直径約3mm、成人女性では7.5mm、成人男性では8.5mm程度です。成人の気管内挿管チューブには、人工呼吸による管からの空気漏れを防ぐ目的で、先端に小さな空気袋がついています。

気管内挿管後、手術が開始されます

口を大きく広げてみても、喉の奥にある気管の入り口は見えません。そこで麻酔科医は、喉頭鏡(こうとうきょう)という先端が光る特殊な装具を使って、のどの奥を照らしながら、気管内挿管チューブを挿入します。喉頭鏡は、バール(くぎ抜き工具)のような形状です。持ち手の長さは約10~15cm、直径は麻酔科医の手の大きさや好みに合わせて2~4cm程度です。バールの先端に相当する光りを放つ部分は、対象となる患者さんの年齢や体格によって、長さや太さを変えることができます。

気管内挿管チューブ、全身麻酔、合併症、人工呼吸

手術が無事終わり、自分の呼吸が戻ると、のどに入れていた気管内挿管チューブは抜かれます

また、患者さんの口やあごの大きさ、角度、口が開かない病状などの諸条件で、喉頭鏡の挿入が困難な場合があります。その場合には、特殊な形状の喉頭鏡やファイバースコープを使います。手術によっては気管内挿管を中止し、喉頭鏡を使わず入れることができるラリンジアルマスクという装具に変更する場合もあります。ラリンジアルマスクは、のどの奥に入れるマスクタイプのチューブで、皮膚や下肢などの手術によく使用されます。

喉頭鏡と気管内挿管チューブは、全身麻酔で眠っている間に挿入されるのでご安心ください。人工呼吸の安全性が確保され、全身状態が安定したことを確認して、手術が開始します。

リスク・危険性が不安?痛みや後遺症のない安全な全身麻酔を

無事に手術が終了し全身麻酔から目が覚めたら、なんだか喉がヒリヒリする、と感じられることがあります。これは、喉頭鏡を舌の根元に挿入する際に、先端が口腔内をこすったため、もしくは、手術中のどに入っている気管内挿管チューブの圧迫で、のどが腫れるためです。のどのヒリヒリ感は、通常、手術後2~3日で治まります。

全身麻酔開始時に、フェイスマスクによる人工呼吸が困難で、低酸素状態などの不測事態が発生する可能性はゼロではありません。患者さんが眠った直後に、麻酔科医のストレスはマックスとなります。航空機を操作するパイロットは、飛行機が飛び立つ瞬間と着陸する瞬間、すなわち離陸と着陸に最も注意を払うといいます。麻酔科医も同様です。全身麻酔を開始して患者さんの人工呼吸が安定するまでの時間と、麻酔から覚醒した患者さんの自発呼吸が安定するまでの時間に、最も神経を使います。

患者さんの呼吸を止める全身麻酔に求められることは、第一に安全性です。これを胸に刻みながら、今日も麻酔科医たちは、全身全霊をかけてあなたの命を守っています。
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