手術室では何が起きているの? 全身麻酔薬投与後の15分間
全身麻酔薬は、点滴から投与されます。薬が体に入ると、数十秒で意識はなくなり、呼吸が止まります
脈拍や血圧、酸素濃度などの確認後、全身麻酔は開始されます
全身麻酔をかける前に、患者さんの体の状態を知る指標として、心電図、体内の酸素状態を測るパルスオキシメーター、血圧計などのモニターが装着されます。これら全てのモニターの数値を確認し、安全性を確保した後、全身麻酔は開始されます。全身麻酔は、
・意識がないこと
・痛みを感じないこと
・体が動かないこと
が基本です。
成人の場合、全身麻酔は、点滴から体に投与する静脈麻酔で意識を取り、筋肉弛緩薬(きんにくしかんやく)で体の筋肉の動きを止めます。体の筋肉が止まると、同時に患者さんの呼吸も止まります。麻酔科医は、低酸素を防ぐため、患者さんの呼吸の代わりに人工呼吸を開始します。
フェイスマスク人工呼吸の安定後、気管内挿管に移行します
患者さんの息がとまった状態で行われる気管内挿管。麻酔科医の緊張はピークを迎えます
気管内挿管チューブの太さは、新生児で直径約3mm、成人女性では7.5mm、成人男性では8.5mm程度です。成人の気管内挿管チューブには、人工呼吸による管からの空気漏れを防ぐ目的で、先端に小さな空気袋がついています。
気管内挿管後、手術が開始されます
口を大きく広げてみても、喉の奥にある気管の入り口は見えません。そこで麻酔科医は、喉頭鏡(こうとうきょう)という先端が光る特殊な装具を使って、のどの奥を照らしながら、気管内挿管チューブを挿入します。喉頭鏡は、バール(くぎ抜き工具)のような形状です。持ち手の長さは約10~15cm、直径は麻酔科医の手の大きさや好みに合わせて2~4cm程度です。バールの先端に相当する光りを放つ部分は、対象となる患者さんの年齢や体格によって、長さや太さを変えることができます。手術が無事終わり、自分の呼吸が戻ると、のどに入れていた気管内挿管チューブは抜かれます
喉頭鏡と気管内挿管チューブは、全身麻酔で眠っている間に挿入されるのでご安心ください。人工呼吸の安全性が確保され、全身状態が安定したことを確認して、手術が開始します。
リスク・危険性が不安?痛みや後遺症のない安全な全身麻酔を
無事に手術が終了し全身麻酔から目が覚めたら、なんだか喉がヒリヒリする、と感じられることがあります。これは、喉頭鏡を舌の根元に挿入する際に、先端が口腔内をこすったため、もしくは、手術中のどに入っている気管内挿管チューブの圧迫で、のどが腫れるためです。のどのヒリヒリ感は、通常、手術後2~3日で治まります。全身麻酔開始時に、フェイスマスクによる人工呼吸が困難で、低酸素状態などの不測事態が発生する可能性はゼロではありません。患者さんが眠った直後に、麻酔科医のストレスはマックスとなります。航空機を操作するパイロットは、飛行機が飛び立つ瞬間と着陸する瞬間、すなわち離陸と着陸に最も注意を払うといいます。麻酔科医も同様です。全身麻酔を開始して患者さんの人工呼吸が安定するまでの時間と、麻酔から覚醒した患者さんの自発呼吸が安定するまでの時間に、最も神経を使います。
患者さんの呼吸を止める全身麻酔に求められることは、第一に安全性です。これを胸に刻みながら、今日も麻酔科医たちは、全身全霊をかけてあなたの命を守っています。