すきま風よりも、
自分の好きな空間に住める楽しさ
もともとはごく普通の2階建ての1軒屋。内装、外装ともに手が入れられ、独特の雰囲気に
シルバージュエリー作家の
JAY TSUJIMURAさんが借りているのは根津の一軒家。1階は工房、ショップとなっており、2階は住居。長らく海外に住んでいたTSUJIMURAさんは帰国後、鎌倉の古民家暮らしを経て谷中へ。マンションのきっちりした、手を入れられない雰囲気が嫌で住むなら古民家と思い、谷中周辺の不動産会社に軒並みメールを入れたところ、返信したのが前出の徳山さん。たまたま、現在の物件が空いてはいたものの、最初、大家さんは改装に抵抗があり、いったんは断られたとか。しかし、インターネットで内外のミュージシャン、有名人にもファンのいるTSUJIMURAさんの実績を知った大家さんは2カ月後、自由にやって良いと許可を出してくれました。もちろん、徳山さんが原状回復その他、TSUJIMURAさんの使い方に合わせた契約書を作り、 貸す側、借りる側ともに納得した上での契約です。
写真右奥は元押し入れだった部分。その前に作品がディスプレイされている。天井にはミラーボール、シャンデリア
元々は和室6畳、8畳の板張りの部屋があった1階は真っ赤に塗られ、天井にはシャンデリアにミラーボール。とても、古い日本家屋だったとは思えない空間に生まれ変わっています。「何よりも自分の好きにできるという点が気に入っています。アトリエとして利用するなど創造的な作業をするなら、こういう家がいいんじゃないかと思いますね。ただ、もちろん、すきま風は入るし、以前住んでいた古民家ではげじげじににモグラ、沢蟹が、今の家ではネズミやらゴキブリが出るけれど、それもその場所の自然と思えば、それほど気にはなりません」。
以前、お目にかかった谷根千エリアの古いアパートに住む、着物好きの男性も「隙間風、家の傾き、冬の寒さなどを気にしても仕方ない。僕はこの街と家の和の雰囲気が好きだから、そこに住めればいいと思っている」と同様のご意見。不自由、不便があっても好きなら住めるということでしょう。
最初は観光で訪れたものの、やがて住みたくなってと言う人が多い。ただ、以前から住んでいる人に聞くと、その分、物価などが上がったとも
実際、徳山さんは「谷根千に遊びに来るうちに、ここに住みたくなったと言って部屋を探しにいらっしゃる方で決まる人というのは、何度も来ていて古くても良いという人です。住まいそのものというよりも、この地域に住みたいと強く思っていらっしゃる方が多いのでしょうね」とも。やはり好きという気持ちが大事なようです。
すきま風、冬の寒さは古民家にはつきもの。それも自然と楽しめるかどうかをよく考えてみよう
すきま風や虫以外では設備などの故障も古民家ではしばしばあること。前出の今村さんはご自宅も築40年の古民家で、10年前に大改造をして住んでいらっしゃいます。「その前に住んでいたところも古いマンションを買って自分たちでリノベーションしたもの。一度、棚のひとつでも自分で吊ってみると、家をいじるのは楽しいってことが分かります。それに古い木の家だと、不便も、古さも味になります。新しいものでは、出せない雰囲気がある。それが魅力なんです。時間と共に変わる家族の暮らし方に合わせて行くには家も変えられるもののほうがいいんじゃないかしら」。
住まい選びはその人の優先順位によって決まる。それが明確になっていないと古民家は選べないタイプの住まいかもしれない(写真提供/鎌倉古民家バンク)
また、鎌倉古民家バンクの島津さんは「古民家は探すにも、住むにも手間がかかるもの。受け身でサービスに期待する姿勢では暮らしていけません。蝶番が壊れていたら、直すのが楽しいと思えない人には古民家暮らしは向きません。また、古民家で借地だと買うには安くて済むものの、土地に抵当権が付けられないのでフラット35は使えませんし、建物も新耐震以降でないと融資してもらえないケースが多い。面倒はたくさんありますが、それでも一度失われたら二度と得られない趣き、希少性を考えると、住む喜びのある物件じゃないかと思います」。
憧れだけでは住めそうにはないものの、それを打ち消してなおプラスのある古民家ライフ。誰にでもできるものではなさそうですが、お好きなら検討してみてください。