いまの都道府県が、旧国のどこにあたるかは県民性を知る上で大きな手がかりになるとして、よく書籍等でも取り上げられています。今回紹介する「藩と県」。一見すると「今の県」と「昔の藩」のつながりが書かれてそうですが、サブタイトルに「日本各地の意外なつながり」とあるように、全国の「藩同士」のつながりが多く紹介されています。
大名の移動がきっかけ
読む進めているうちに「入封(にゅうほう)」「転封(てんぽう)」という単語が何度も出てきます。どちらも江戸時代の大名に関係する言葉で、「入封」とは土地を与えられて大名がその領地に入る事、「転封 」とは大名の国替え、いわば配置換え。国家公務員の転勤といった感じでしょうか。この入封、転封、そして参勤交代をあわせた3つのイベントが「日本各地の意外なつながり」のキッカケになっている例が多くあります。
金魚の産地、意外なつながり
たとえば金魚の話。関西で金魚といえば金魚の三大産地の一つである大和郡山市。一方、日本最大の産地は愛知県弥富市。市のキャラクターは金魚をの「きんちゃん」です。弥富市が金魚の養殖をするきっかけは、幕末の頃にありました。大和郡山の金魚商人が現在の名古屋市へ商いに行く途中、弥富市内にある宿場町で、金魚を休ませる為の池を作り放し、それを見た住民が金魚を購入した事が始まりとされています。
では、大和郡山で金魚養殖が盛んとなるきっかけは?これは、江戸時代に甲府城主であった柳沢吉里が甲府から転封の際に持って来たことにさかのぼります。今は(おそらく)金魚養殖は行われていない甲府市ですが、今も大和郡山市とは姉妹都市として結ばれています。
この甲府市と大和郡山市のような「藩の時代にさかのぼればわかる関係」が、他にいくつも紹介されています。例えば関西に関連するところでは「岐阜と明石(和傘)」「仙台と堺(すずめ踊り)」「出石と信濃(蕎麦)」等々。
また近江(今の滋賀県)はたくさん出てきます。北海道、栃木、愛媛、熊本。「売り手よし、買い手よし、世間よし」の「三方よし」でしられる近江商人の行動範囲の広さがよくわかります。でも、江戸時代って国を離れるのってダメなんではなかったでしたっけ?近江商人がなぜ全国にネットワークを作れたかについては本書をご覧下さい。
初めから読み進めるもよし、目次を見ながら知っている地名を拾い読みするもよし。「江戸の藩屋敷」がどこにあったかの地図も多く掲載されているので都内お住まいの方が案外いちばん楽しめるかもしれません。