胃バイパス術はRoux-en-Y(ルー・アン・イグレック法、日本ではルーワイ法)と呼ばれる手術です。A.D.A.M.
アミノ酸です。
体を作るタンパク質は20種類のアミノ酸で構成されていますが、2型糖尿病が手術で「治る」ミステリーではこのアミノ酸が大事な役回りを演じているようなのです。
医学の基礎研究の成果を臨床につなぐ医学誌Science of Translational Medicine, Aprill 27, 2011に掲載された論文、「体重減少量は同じでも、胃バイパス手術を受けた肥満糖尿病患者と食事療法のみの患者との、代謝に対する異なる影響」を比べたものです。
つまり、同程度の減量でも胃バイパス手術を受けた患者のほうがなぜ血糖コントロールがいいのかを調べました。
米国のデューク大学とコロンビア大学の共同研究です。
肥満症手術と糖尿病の研究で対象となるのは胃バイパス手術がインクレチンに与える影響の分野が多いのですが、今回は体を循環する血液中のアミノ酸とアシルカルニチン(脂肪酸の付いたカルニチン)の変化に注目しました。
タンパク質を構成する20種類のアミノ酸にはいろいろな特徴をもつグループがありますが、その内の分枝鎖アミノ酸(イソロイシン、ロイシン、バリンの3種類)がマークされました。
肥満すると血しょう中の分枝鎖アミノ酸濃度が上昇することは1960年代から複数報告されています。
これらの論文から分枝鎖アミノ酸の隠れた役割り、つまり、満腹感やレプチン、ブドウ糖、細胞信号伝達、脂肪過多症、体重などの潜在的な調整機能が注目されてきたのです。
Blandine Laferrer MD(コロンビア大学)をリーダーとする研究者たちは21人の肥満2型糖尿病者の血しょうアミノ酸を分析しました。
11人が厳格な食事療法、10人がRY(ルーワイ)法の胃バイパス手術を受け、全員が10kgの減量を達成しました。
減量実験開始前と10kg減量後に空腹時採血を行なって、血しょうアミノ酸をタンデム質量分析法で正確に測定しました。
その結果、胃バイパス手術を受けた人たちは、血しょうアミノ酸の総量、特に分枝鎖アミノ酸が大きく減少していたのです。この変化は食事療法で減量した人たちには見られませんでした。
分枝鎖アミノ酸が酸化されて出来る代謝物質の減少も胃バイパス手術グループのみ見られました。
減量による効果を除くために、分枝鎖アミノ酸と逆の関係にあるアシルカルニチンをコントロールとして検討した結果、分枝鎖アミノ酸とその代謝物質のレベルのみがインスリン抵抗性と相関することが分かりました。
この結果から胃バイパス手術が何らかの機序で血しょう中の分枝鎖アミノ酸を減らしてインスリン抵抗性を下げるのではないかと研究者たちは考えています。
胃バイパス手術で食物が減り、インクレチンの分泌が高まり、血中分枝鎖アミノ酸低下でインスリン抵抗性が改善するのなら、2型糖尿病の緩解(かんかい:永続的にしろ、一時的にしろ、病状が停止し、みかけでは消失した状態)もあり得るようです。
かくなる上はそのメカニズムを早く解明して、胃バイパス手術のようなリスクのある外科手術ではなく、薬物療法あるいは簡易な手術で同等の効果が臨床で応用されますように!
なお、分枝鎖アミノ酸は必須アミノ酸で肉にたくさん含まれています。
でも、ラットに分枝鎖アミノ酸のサプリを与えるとインスリン抵抗性が高くなるのは証明されています。過体重の人は肉の食べ過ぎにちょっとご注意を!
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