無表情だった母が笑い、
人見知りしていた父が歌った
私の両親がデイサービスを利用していた頃、スタッフの方を手伝いながら見学させてもらったことがあります。
当時の母は、統合失調症とアルツハイマー型認知症のミックス状態で猜疑心が人一倍強く、感情を表現することがとても下手になっていました。また父は典型的な内弁慶で、母に対しては威張り散らすくせに、他人に対して何かを主張することが苦手でした。そんな両親が、半日にわたって他人と一緒に過ごすことになるデイサービスには素直に通ってくれるのが、私にとっては嬉しくもあり、不思議でもありました。
私が見学に行った日、両親は最初私のほうに気を取られていましたが、私がスタッフの方たちに混じって働いているうちに、少しずつ普段のデイサービスの雰囲気に馴染んでいきました。そうこうするうちに、入浴や昼食などが一段落して、午後のレクリエーションがスタート。ここからの両親の姿に、私は目を奪われました。
利用者数が多いデイサービスだったので、何組かに分かれて別々のレクリエーションが行われていたのですが、母が塗り絵、父がカラオケのグループに参加。母が時折首をかしげながら、一生懸命に色を塗ったり、スタッフの方に「上手に塗れていますね」と声をかけられて照れ笑いを浮かべる姿は、普段の生活では想像もつかないものでした。父は父で、1曲歌い終わったと思ったらすぐに次の曲を歌いたがり、他の利用者さんやスタッフの方にたしなめられても、「じゃあ、あと1曲だけ」と言ってなかなかマイクを手放しません。周りに迷惑をかけるのは感心しませんが、心から楽しんでいるのは間違いなさそうです。
レクリエーションの合間にスタッフの方に話を聞くと、「最初、デイサービスに来られ始めた頃は、借りてきたネコみたいでしたが、なかば強引にレクリエーションに参加してもらってからは、ご本人たちも楽しそうに過ごしておられます」とのこと。高齢者にとって、介護サービスでのレクリエーションが大きな意味を持つことを、身をもって実感しました。
多種多様なレク素材が
無料でダウンロードできる『介護レク広場』
「介護レク広場」は1万以上の介護施設が会員登録する、人気サイトです
『介護レク広場』は、その名前の通り、介護現場でのレクリエーションに特化したWebサイト。さまざまなジャンルのレクリエーション用素材を無料で配布しており、2011年8月現在で50万PV、登録会員数が1万施設に上る人気を集めています。施設での利用が8割以上とのことですが、個人で利用することも可能です。
配布されているレクリエーション素材は、大きく5つに分かれています。主なコンテンツは、下記の通りです。
■ 作品が作れるレク
- 塗り絵……「想像力を養う」遊びである塗り絵。可愛らしいものから写実的なものまで、絵のタッチも豊富で、絵柄の理解や配色の傾向などから、利用者のさまざまな状態を読み取ることもできる
- 切り絵……いくつかのイラストを切り抜いて、色を塗って絵を完成させるレクリエーション。切り抜いた絵柄は、利用者がさまざまな場所にパズルのように並べて貼る。絵柄の理解や手先の使い方などから、利用者のさまざまな状態を読み取ることもできる
■ ダウンロードの度に問題が変わるレク
- クイズ……色や形、問題の意味を見分けて解答するクイズ。視覚と脳のトレーニングにも有効
- ゲーム……ペア探しやビンゴ、クロスワードなど、クリアすることを目的とした遊び。専門の知識がなくても、楽しみながら「脳を鍛える」ことに役立つ
- 計算問題……ます計算などいろいろなパターンの計算問題。システムが組み込まれているので、ダウンロードするたびに、問題の内容が変わる
- イラスト集……季節の絵柄や人物イラストなど、施設の案内などに使えるフリーのイラスト素材
- カード集・景品集……バースデーカード、クリスマスカード、賞状やメダルなどのフリー素材集。年賀状や暑中見舞いのはがきデザインもある
- 歳時の豆知識……季節にちなんださまざまな豆知識を、イラストや文章で解説。利用者とのコミュニケーションをはかる際に、小ネタ集として利用できる
■ 集中力がUPするレク
- 習字……お手本を見て書くもの、薄い文字をなぞるものなど、バリエーション豊富な習字用の素材。集中力を高めるのに有効。お手本の理解、読み書きの様子、筆の使い方などから、利用者のさまざまな健康状態が読み取れる。
■ 声を出すレク
- 童謡わらべ歌……懐かしい童謡・わらべ歌の歌詞。手遊びなどをしながら歌うものは、耳だけでなく、手や指の訓練にもなる
- 季節の歌……お花見会やクリスマスなど、施設の行事などの際に便利な、季節感のある歌の歌詞
- 言葉遊び・詩……早口言葉や朗読など、歌が苦手な人にも楽しめる言葉を使ったレク素材。
『介護レク広場』がめざすもの
『介護レク広場』は、どのようにして生まれ、今後、どういう方向に進んでいくのでしょうか? 企画・運営を行っているスマイル・プラス株式会社の荒川弘也社長に、気になる部分を直接伺いました。
横井「『介護レク広場』を立ち上げることになったきっかけは?」
荒川社長(以下、荒川)「デザイン業界で30年活動するなかで、『何か社会の役に立ちたい』『自分にできることは何か』といった思いを長く持っていたんです。あるとき、たまたま祖母が通うデイサービスで行われている介護レクリエーションのことを知り、大切に持って帰る『塗り絵』などのレク素材に目が留まりました。これなら自分たちの力、技術などが大いに役立てられると考えたんです」
横井「『介護レク広場』を立ち上げ、運営するなかでのこだわりは?」
荒川「『人を支える』人を支える、をコンセプトとして、3つの柱を中心にサイトを運営してきました。それは『介護現場ですぐに使えるレク素材を無料で提供』『レクリエーション時に使えるアイデアや役立つ情報を提供』『介護の現場に必要な商品やサービスを提供してくださる企業との橋渡し役』です。ここ最近、サイトのコンセプトが浸透してきたかなという手応えを感じてきたところです」
横井「これまでの活動のなかで、印象深いことは?」
荒川「介護施設で取材をさせてもらうなかで、皆さん口を揃えて『ありがとう』『介護レク広場があるから、随分助かっているよ』など喜びの言葉を本当にたくさんいただいていることです。当サイトで紹介して欲しいコンテンツのアイデアやネタも、現場の方にヒアリングしながら一つひとつ作っていますので、数ある介護ポータルサイトのなかでも、よりユーザーに近いサイトなんだなと痛感しています」
横井「今後、どういった活動を考えておられますか?」
荒川「現状、当サイトに協力していただいている専門学校や協力団体は多数ありますが、もっともっとネットワークを広げて、さまざまな視点や分野からレクリエーションをコンテンツとして提供できればと思っています」
横井「今、介護で悩んでいる人にメッセージをお願いします」
荒川「介護とは、本当に大変で、先行きの見えないものです。そのなかで、『介護』と『レクリエーション』はとても密接な関係だと思っています。レクリエーションは、ただ楽しむだけのものでなく、人の心をより豊かにするものです。介護される人もする人も「笑顔」になり、レクリエーションを通じて、介護サービスがより質の高いものになっていくよう、我々がサイトを通じて少しでもお手伝いできれば幸いです」
介護関連企業とのタイアップ企画など、意欲的な展開も進めている「介護レク広場」。介護現場で役に立つだけでなく、介護現場と企業を結ぶ架け橋としてもますます重要な存在となりそうです。
行政などからの注目も高まる
2011年2月、『介護レク広場』は近畿経済産業局が選ぶ「感性サービス撰」に選ばれました。
この「感性サービス撰」とは、近畿2府5県(福井・滋賀・京都・奈良・和歌山・大阪・兵庫)に本社を置く企業から「顧客の感性に働きかけるサービス(感性サービス)」を独特の手法で提供している先行事例を募集し、そのなかから「サービスの内容」「顧客とのコミュニケーション」「サービスを継続する体制」などの観点で30社程度を選定するという取り組みです。
介護施設などのスタッフはもちろん、在宅介護を行う介護家族や行政からも注目を集める『介護レク広場』。膨大な量のレク素材を無料で提供する、オンリーワンのサイトとして今後に期待したいと思います。
>高齢者レクリエーション素材の無料ダウンロードは介護レク広場