皮膚筋炎とは(多発性筋炎とは)……悪性腫瘍に合併してることも
皮膚筋炎になると、全身の筋肉に炎症が起こります
皮膚筋炎は、その名の通り、皮膚と筋肉に症状が出る病気です。手や目の周りの皮膚に紫紅色の湿疹が現れ、筋肉に炎症が起こることで筋肉に力が入らなくなったり、疲れやすくなったり、筋肉痛が起きたりします。多くの筋肉に炎症が起きるため、別名「多発性筋炎」とも呼ばれています。
頻度はまれで、2009年の調査では、年間発病率は1000~2000人。患者数は2012年で約19500人と推定されています。女性に多く、男女比は1:3です。病気になりやすい年齢は、5~9歳の子どもと50歳代の大人にピークがあります。現在は20000人を超えている可能性があります。
子供の場合はあまり皮膚症状がないため、診断が難しいのも特徴。私が診た皮膚筋炎でも、あまり皮膚の症状ははっきりしませんでした。大人の場合は、悪性腫瘍に合併していることがあり、多発的に筋炎を起こしていることが多いです。
<目次>
- 皮膚筋炎の症状……筋力低下や疲れやすさ、指先の症状など
- 皮膚筋炎の原因皮膚筋炎の原因……悪性腫瘍、遺伝なども関係か
- 皮膚筋炎の診断規準・検査法
- 皮膚筋炎の治療法……安静を第一に、ステロイド治療や免疫抑制薬など
- 皮膚筋炎の予後……5年生存率は80%前後
皮膚筋炎の症状……筋力低下や疲れやすさ、指先の症状など
筋肉の炎症による症状と、皮膚の症状に分かれます。筋肉では、炎症を起こす細胞(リンパ球やマクロファージ)が集まっており、筋肉の組織の変性(変化している)、壊死(壊れている)、再生している状態です。■筋炎の症状
- 動作をするときに力が入らない(筋力低下)
- 疲れやすい
重症になると、起き上がったり、立ち上がったりできなくなり、寝たきりや車いすの生活を強いられることになります。筋肉は萎縮してしまいます。
■レイノー現象やショール徴候などの皮膚症状
- ヘリオトロープ疹(両方、片方の目の周りに紫紅色の腫れぼったい皮疹)
- ゴットロン徴候(手の指の関節の手の甲の方で紫紅色の皮疹)
- V徴候(頸の前の方から胸までの赤い発疹(紅斑))
- ショール徴候(肩から背中にかけてショールの形をして赤い発疹(紅斑))
- 肘や膝などの関節の表側に隆起した紫紅色の皮疹
- レイノー現象(寒いと指先が白くなり、ジンジンと痛くなったりしびれたりする症状)…この現象は約30%の患者に見られます。
■関節症状
皮膚筋炎の中の約30%に、関節の痛みなどの関節炎があります。しかし比較的軽く、変形もなく、痛みの時間も短いです。
■間質性肺炎などの呼吸器症状
皮膚筋炎の約半数に肺炎を起こします。この肺炎は、肺全体が白くなる「間質性肺炎」と呼ばれ、皮膚筋炎では、胸部X線の定期検査が必要です。また、ステロイドなど免疫を抑えると、結核などの病気になることもありますので、併せて胸部X線は必要です。
■不整脈や心不全などの心臓の症状
心臓も筋肉なので、筋炎を起こしまいます。不整脈や心臓のポンプ機能が落ちた心不全があります。
■その他の症状
発熱、全身倦怠感、易疲労感、食欲不振、体重減少などがあります。
筋炎の症状がなくても、特徴的な皮膚の症状があれば、皮膚筋炎と診断されます。
皮膚筋炎の原因皮膚筋炎の原因……悪性腫瘍、遺伝なども関係か
免疫の異常、ウイルスなどの感染、悪性腫瘍、薬剤、遺伝などが言われていますが、はっきりした原因は不明です。悪性腫瘍の合併は、皮膚筋炎で約3倍、多発性筋炎で約2倍合併すると言われています。悪性腫瘍としては、胃癌、肺癌、乳癌、悪性リンパ腫などで特にこれが多いというわけではありません。ウイルス感染や悪性腫瘍などの原因の組み合わせて、免疫の異常が起こり、自分の筋肉に対する抗体ができたり、自分の筋肉を攻撃するリンパ球が発生し、筋炎を起こすと考えられています。
皮膚筋炎の診断規準・検査法
筋肉の症状がある時に、血液検査を行うのが最初かと思います。■血液検査
皮膚筋炎だった場合、血液検査の数値では、筋肉に含まれる酵素であるクレアチンキナーゼ(CPK)、アルドラーゼ、GOT(AST)、ALT、ミオグロビンが上昇していることが確認できます。心筋に病変がある場合は、CK-MBや心筋トロポニンの値が高くなります。
抗核抗体は約80%の患者で陽性であったり、抗Jo-1抗体という自己抗体が陽性だったりします。抗アミノアシルtRNA合成酵素(aminoacyl-tRNA synthetase:ARS)抗体も陽性になります。
■筋電図
皮膚に電極をつけて筋肉の電気信号をみる検査です。皮膚筋炎なら電気信号が低下しています。針を刺して筋電図を見る検査では、神経の病気で筋力が低下していることを否定するために行います。
■筋生検
筋肉に針を刺して、針の中に得られた組織を観察します。筋肉での炎症、筋肉は筋線維という細い糸のようなものが集まっていますが、筋線維が破壊され、一部再生されています。リンパ球、マクロファージなどの免疫細胞が破壊された場所に見られます。
■筋MRI
筋肉の炎症を見るのに、炎症があると、正常の組織とMRIで診ると、画像の濃さが異なりますので、炎症の範囲を見るのに有用です。皮膚炎の結果として、筋組織が脂肪に変わる脂肪変性はMRIで診断できます。子供でもじっとできれば、痛みのない検査ですので、経過を見ていくのに有用です。
皮膚筋炎の治療法……安静を第一に、ステロイド治療や免疫抑制薬など
筋炎が起こっている時には筋肉への負担を減らし、安静にすることが第一。筋肉の炎症が落ち着いて、筋肉の酵素CPKが正常化したら、筋肉のこわばり、何かするときの不自由さや筋力の回復のために、リハビリテーションを行います。食事は筋肉トレーニングの食事に似て、筋肉の再生によい高蛋白、高カロリー食で消化のよいものにしましょう。日光などの紫外線は避けておきましょう。嚥下障害や急速進行性間質性肺炎のある症例では、強力かつ速やかに治療を開始した方がよいとされています。
炎症が起こっている時期の薬物療法が炎症を抑える薬を使います。副腎皮質ステロイド薬(ステロイド)が使用されます。プレドニンというステロイドを1mg/kg/日で4週間程度使用し、筋力の回復、CPKなどの検査所見の改善を見ながら数カ月かけて、減量します。あまり早く減量してしまうと、筋炎の再発をきたします。発症から早くに治療を始めると筋力の回復も早いと言われています。ステロイドはどうしても長くなりますので、感染症になりやすくなったり、胃潰瘍、糖尿病の発症、高血圧、肥満、多毛、ニキビ、不眠、緑内障、白内障などが問題になりますので、定期的に受診します。重症例では、ステロイドを大量に3日間投与するパルス療法が行われます。
皮膚症状にはステロイド外用薬が使用されます。
γグロブリンという体内の免疫成分を大量に投与する方法がありますが、即効性があるものの、持続性がありません。
免疫抑制薬は、ステロイドや免疫グロブリンで効果の無い場合に使用され、ステロイドの量を少なく開始する場合には、ステロイドに併用されます。医療保険の適応があるのは、アザチオプリン(イムラン)、間質性肺炎を起こしている時には、タクロリムス(プログラフ)が使用されます。
慢性関節リウマチで使用されるメトトレキサート(メソトレキセート)、シクロスポリンA(ネオーラル)が使用され、間質性肺炎がある場合はシクロホスファミド(エンドキサン)なども用いられます。効果は海外や国内で論文で報告されていますが、保険診療としてまだ認められていません。ただし、メトトレキサート(メソトレキセート)の副作用に間質性肺炎があるので要注意です。
悪性腫瘍を合併している場合は、悪性腫瘍に対する治療が優先されます。
皮膚筋炎の予後……5年生存率は80%前後
皮膚筋炎の筋肉症状についてはステロイドの効果は75~85%。筋炎は、ステロイドを減量するときに再燃しやすく、筋肉回復には時間がかかります。悪性腫瘍、感染症、呼吸する筋肉、心臓の筋肉が炎症を受けている場合、間質性肺炎を起こしている場合は予後はよくありませんが、それらがなければ5年生きられる確率を表す5年生存率は80%前後です。筋力低下がなかなか回復しないこともあって、その治療の開発が進んでおり、分岐鎖アミノ酸製剤の初期投与で筋力低下を防ごうという試みをされているようです。
早期発見、早期治療、合併症、悪性腫瘍の有無などを検査する必要があります。
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