顔面神経麻痺とは……子供にも多い「ベル麻痺」など
顔面神経麻痺と子供の関係
顔面神経麻痺は、脳から顔への神経の間で電気信号が正しく伝わらなくなり、顔の筋肉が動かなくなったりする病気です。私自身も年間2~3人は診断しており、決して珍しい病気ではありません。
脳の中で顔面神経への司令塔による障害を「核性麻痺」、顔面神経そのものによる障害を「末梢性顔面神経麻痺」と言います。多いのは末梢性顔面神経麻痺です。子供から大人まで見られますが、子供で多い「ベル麻痺」と呼ばれる特発性顔面神経麻痺は、人口1万に対して2~3人の頻度で見られます。子供の場合、顔に症状が出ますので、何か表情がおかしいことに気づいて、親が子供を連れてきます。
顔面神経麻痺の症状…片側表情が乏しい、目が閉じられないなど
右側が顔面神経麻痺で左は正常です
- 目が閉じれない
- 味覚がおかしい
- 唾液の量が減る
- 涙が減る
- 口がゆがむ、口からよだれが出る
- 片方が表情に乏しい
- 帯状疱疹ウイルスが原因の場合、耳の中や耳たぶの水泡、難聴、耳鳴り、めまい
成人であれば、呂律が回らなくなったり、頭痛、意識障害、手足の麻痺やしびれなどの症状があれば、脳血管障害が歌われますし、聴神経腫瘍の場合は、聴力の異常がみられます。
顔面神経麻痺の原因……顔の筋肉に電気信号が伝わりにくくなる
神経とは、例えるなら電気信号を伝える電線のようなものです。実際に電気信号が神経に流れた場合、神経の先に筋肉があると筋肉がピクピクと動きます。末梢性顔面神経麻痺の場合、寒さなどによって、骨の中を通っている顔面神経に栄養を与えている血管が狭くなってしまったり、何らかの感染(特に水疱瘡の原因である帯状疱疹ウイルスなどの感染)によって神経が腫れてしまったりすることで、電気信号が伝わらなくなり、筋肉が動かなくなります。
核性麻痺の場合は、脳の中に腫瘍ができたり、脳梗塞によって脳細胞が働くなることが原因になります。
脳神経外科や耳鼻咽喉科の手術などで顔面神経が損傷された場合であったり、骨折などの外傷でも起こってきます。
顔面神経麻痺の検査……誘発筋電図など
顔面神経麻痺を直接する検査が誘発筋電図です。この検査は、瞼をあげる筋肉、鼻の横の部分の筋肉に電極をつけて、耳の前の部分に電気刺激を与え、顔面神経の電気の信号の状態を測定します。後は、顔面神経に関連する検査として、顔面神経の反射を見る検査、針を筋肉刺して筋肉の活動を見る検査、涙の流れを見る検査、味覚検査などがあります。核性麻痺の場合は、脳MRI検査が必要になります。子供ではベル麻痺が多いのですが、水痘・帯状疱疹ウイルスが原因になっている場合は治療が変わってきますので、血液検査で水痘・帯状疱疹ウイルスの感染が無いことを確認するようにしています。顔面神経麻痺の治療……ベル麻痺は治療なしで完治することも
子供に多いベル麻痺の60%以上は治療なしで完治すると言われています。しかし、薬物療法の1つであるステロイド治療は早期に行わないと効果が少なく、症状が出て長時間経ってからのステロイド治療は効果が低いことが心配されるため、実際には放置せず、ステロイド治療を行う施設が多いです。薬物治療としては、炎症や神経のむくみを取るためにステロイドが使用されます。短期的な使用で済み、長くても15日間程度。短期間なのでステロイドの副作用は少なく、あまり心配する必要はありません。それ以外に、ニコチン酸、ヒスタミン、パパベリンという血管を拡張させる薬、神経再生に必要なビタミンB12を使用します。顔面神経の症状で目が閉じなくなると眼球が乾いてしまうため、目の乾燥を防ぐために、人工涙液を使ったりもします。帯状疱疹ウイルスが原因の場合は、抗ウイルス薬を使用します。(詳しくは「水疱瘡(みずぼうそう)の治療・予防(予防接種など)」をご参照ください。)
状態を見ながら、早期に適切な表情筋のリハビリテーションを行っていきます。
内科的な治療でも、神経が圧迫された状態がある場合は、顔面神経の通っている部分の骨を開けて、顔面神経が骨の中で圧迫されてないように処置することがありますが、頻度の高い治療法ではありません。核性麻痺になると、脳腫瘍などが原因であることが多いので、脳腫瘍に対して、外科治療、放射線治療、化学療法などが行われますが、ベル麻痺では行われることはありません。
回復がよければ3ヶ月、長くても6ヶ月程度で完治します。今まで多くのベル麻痺を診察しましたが、全例、後遺症なく回復しております。ただし、まれですが、完治に1年以上かかったケースでは、顔面神経麻痺が一部残ってしまうこともあるので、症状の早期から適切な治療を受けるために、医療機関に受診しましょう。
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