糖尿病/糖尿病の経口薬・インスリン

糖尿病新薬・インクレチン関連薬の効果・副作用・評判

2009年年末から2010年にかけて、新しい糖尿病治療薬の発売ラッシュがありました。1年が経過し長期処方が可能になったことで、実際の臨床現場でも新薬が処方される機会が増えてきています。インクレチン関連薬の作用秩序と、DPP-4阻害薬、GLP-1作動薬の効果・副作用・患者さんからの声をご紹介します。

井上 真理子

執筆者:井上 真理子

医師 / 生活習慣病ガイド

薬

新しい薬の発売で選択肢が増えました。

一昨年の年末を皮切りに、これまでとは全く異なる作用機序を持つ、新しい糖尿病治療薬が続々と登場してきました。新しい薬剤は発売後1年間は1回の診察で2週間分の処方しかできないこともあり、通常1~2か月に1回の来院の外来患者さんには少し処方しにくい感じがありました。しかし発売後1年が経過した現在では、長期処方が可能なものも出始め、実際の臨床の場でもかなり多くの新薬が処方されるようになってきています。今回はこれらの新薬についての説明と、実際の患者さんの感想を交えてご紹介します。

期待を集める糖尿病新薬・「インクレチン関連薬」とは

血糖値が上昇すると、膵臓から「インスリン」というホルモンが分泌されて血糖値を下げます。ブドウ糖を口から摂った場合と、注射で静脈に投与した場合とでは、口から摂ったときのほうが、インスリンが多く分泌されますが、これは食べ物が消化管に入ると分泌される消化管ホルモンが、インスリン分泌を促す作用を持つため。この消化管のホルモンは「インクレチン」と呼ばれ、このなかには小腸上部から分泌されるグルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド
(glucose-dependent insulinotropic polypeptide;GIP)と、小腸下部から分泌されるグルカゴン様ペプチド-1 (Glucagon-like peptide-1;GLP-1)とがあります。インクレチンは通常、体内でDPP-4(ジペプチジルペプチダーゼ-4)という酵素によってすぐに分解されてしまいます。 

新しい薬は、分解されにくい修飾を加えたGLP-1そのものを注射する「GLP-1受容体作動薬」と、DPP-4を阻害する飲み薬である「DPP-4阻害薬」の2種類で、これらをまとめて「インクレチン関連薬」と呼んでいます。

インクレチン関連薬(DPP-4阻害薬・DLP-1作動薬)の特徴

インクレチンはインスリンの分泌を促しますが、この作用は血糖に依存するため、血糖値が高いとき、すなわちインスリンが多く必要な時にのみ作用する点で、画期的な薬と言えます。

と言いますのも、これまで多く使用されてきた「スルホニルウレア剤(SU剤)」もインスリン分泌を促す薬でしたが、これは血糖値に関わらず作用するため、不必要な時にインスリン分泌を促して血糖値を必要以上に下げてしまい、低血糖を起こす危険性もありました。また、SU剤では常時インスリンを出させるため、膵臓が疲弊してだんだん薬が効かなくなる、二次無効と言う現象が高率にみられることも大きな問題でした。

インクレチン関連薬は単独で使用した場合、低血糖の頻度が極めて低いのが特徴。また、食後の血糖値が大きく上昇することは動脈硬化を進展させるリスクとなるので、食後の血糖上昇を抑えることも非常に重要ですが、インクレチン関連薬ではその効果も高いことが評価されています。

さらに、インクレチン関連薬にはグルカゴンの分泌を抑える作用があります。グルカゴンは血糖値を上げるホルモンのひとつで、糖尿病患者さんではグルカゴンの分泌が適切に抑えられていないことも、血糖値が高くなる原因の1つであると考えられています。ですから、インスリンを増やすだけでなくグルカゴンを抑えることで二重の効果があるのです。

そのほかにも、食べ物の胃からの排出を遅らせ食欲を低下させる作用や、膵β細胞保護と増殖を促す作用も期待されています。膵β細胞とは、膵臓にいるインスリンを作る細胞のことですが、この細胞が減る、すなわちインスリン分泌が減少することが、とくに日本人における糖尿病の発症に深く関係していることが言われていますので、β細胞増殖効果は大いに期待されるところです。

それでは以下で、DPP-4阻害薬、DLP-1作動薬のそれぞれの効果・副作用・評判をご紹介します。

DPP-4阻害薬の効果・副作用・患者さんの声

前述のように、DPP-4という酵素を阻害することによって、インクレチンの分解を阻止し、自分の消化管から分泌されたインクレチンの濃度を維持することで効果を発揮します。

現在は1日1回もしくは2回の経口薬があり、食事のタイミングに合わせずに内服することも可能。従来の食後血糖をターゲットとした薬は、毎食前に飲まなければいけなかったので、DPP-4阻害薬に切り替えた患者さんからは、「1日1回で楽です」「いつも食事を始めてから飲み忘れたことに気付いて慌てて飲んでいましたが、これならもう心配しなくていいですね」と好評です。

DPP-4阻害薬は他の薬のうち数種類のものと併用が可能ですが、SU剤との併用では効果が増強して血糖が下がりすぎることがあるため、発売後に注意勧告が出されました。とくにご高齢の方や腎臓が少し悪い方の場合、SU剤に追加で処方される場合には、もとから内服しているSU剤の量を減らすなどの注意が必要です。しかし、この他の副作用が極めて少ないのも良い点です。

GLP-1作動薬の効果・副作用・患者さんの声

1日1回もしくは2回の注射薬があります。注射のデバイスはインスリンとほぼ同じで、子供からご高齢の方まで簡便に使用することができます。糖尿病発症初期に厳格な血糖コントロールをすることが後々の合併症阻止に効果があることがわかってきましたので、現在では初期治療からGLP-1作動薬を推奨する傾向にあります。しかし、実際にはインスリン療法からの切り替えも多いでしょう。その際には、インスリン依存状態でないこと、つまり、自分自身の膵臓がインスリンを作って分泌する力を持っていることを確認することが大切です。なぜなら、GLP-1作動薬はあくまでも「インスリン分泌を促す薬」なので、インスリンを分泌させる膵β細胞がほとんど、あるいは全く機能していない場合には効果が現れません。

同じ「注射」という点から、インスリンと比較されることが多いのですが、利点としては、少ない回数の注射で食後の血糖を下げられることと、食事とは無関係のタイミングでの注射が可能であることが挙げられます。インスリン療法で最も問題になりやすいのは昼食時の注射ですが、その必要のないGLP-1作動薬に切り替えた患者さんは、「注射を気にしなくてよくなったので、同僚とランチに出かけられるようになりました」と喜ばれていました。

欠点としては、インスリンの場合、注射の量を増やしていくことが可能ですが、GLP-1作動薬は決まった量の注射なので、それでじゅうぶんに血糖値が下げられない場合があること。そういった場合には一部の内服薬との併用も可能ではあります。

GLP-1作動薬のもう1つの重要な利点としては、体重減少効果があります。インスリン療法では体重増加をきたしやすいことが問題でした。体重増加は血糖の悪化につながりますので、この点でもGLP-1作動薬は期待がされています。製薬会社の報告では、1~1.5kg程度と、それほど大きな体重減少ではありませんが、「今までどうやっても減らなかった体重が減ってきて、さらにダイエットする意欲が出てきました」という患者さんの声もあり、減量のモチベーションを上げる効果もあるように思いました。

主な副作用は投与初期の一過性の胃腸障害(便秘など)です。この副作用が出にくいように、少量の注射から開始し、徐々に注射の量を増やしていくことになっています。
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