医師ががんを疑う初期症状とは
普通の診療は、比較的穏やかなもの。しかし、そんな中でも、医師が、ぴくりと反応するフレーズがあるのです
筆者は現在、大阪市内にある180床の病院で院長として患者さんの診療にあたっていますが、大学病院や公立病院で外科医として勤務していた時と比べると、圧倒的に高齢の患者さんが多くなりました。誤嚥による肺炎や、転倒による骨折、夏場の脱水や熱中症など、時に体調を崩すことはありますが、基本的には慢性の経過をたどっている方がほとんどです。
「先生の顔を見ると、元気が出ます」という、医者冥利に尽きるような一言を聞くことは、医師を志した筆者の原点に響くことでもあり、外科医時代とはまた違った喜びがあります。薬の内容も、それほど特殊なものは多くなく、ちょっとした世間話をして、体調をお尋ねし、血圧測定や聴診を行います。そして、前回の処方をチェックして、お薬を新しく処方するという、比較的穏やかな診療風景です。
しかし、そんな穏やかな診療の中でも、「あれ?」と思うことがあります。詳しく調べてみて、がんが発見されたこともあります。つまり、特別専門的な検査をしなくても、「がんでは?」と感じる症状があるのです。医師である私たちが、日常的にどのような点をチェックしているのかをご紹介します。
<目次>
- がんの初期症状1 体重減少……ダイエットなしの減少・食欲不振など
- がんの初期症状2 便の異常……黒い便・下血・下痢・便秘など
- がんの初期症状3 進行する貧血……だるさ・息切れ・めまいなど
- がんの可能性をなんとなく感じたら、健康診断・人間ドックを
がんの初期症状1 体重減少……ダイエットなしの減少・食欲不振など
がんを疑わせる症状の代表である、体重減少。もちろん、「最近、食事には気をつけています」「がんばって運動しているんです」「ダイエット中です」という場合は別です。いつもと変わらない生活をしているのに体重が減っていく場合は、がんの可能性を考えたときに、少し気になる現象です。特に、1~2カ月で10~15%以上の体重減少(60kgの方の場合、6~9kg)が見られる場合は、やはり注意が必要です。洋服のサイズが合わなくなったり、ズボンやスカートがぶかぶかになるなどの自覚があり、周囲の方も気づくような状態になります。
がんが体の中にあると、エネルギー消費の増加に加え、がんのできた部位によっては、食欲が低下することもあり、いつも通りの生活をしているつもりでも、体重が減少してしまうのです。
がんの初期症状2 便の異常……黒い便・下血・下痢・便秘など
日本では、消化器のがん、すなわち、胃がんや大腸がんが多いですが、これらのがんの症状の多くは、便の異常となって表れます。■ 色調の異常
これは、がんからの出血によるものですが、胃や十二指腸のがんでは便は黒色に、大腸のがんでは暗赤色から暗紫色になってきます。肛門に近い直腸のがんでは、鮮血色の下血が見られることもありますが、これらは痔の症状として、見過ごされることもあります。もちろん、頻度としては痔が多いのですが、前述の体重減少の傾向がある場合は、詳しく調べる必要があります。
■ 便通の異常
長引く下痢や、頑固な便秘といった便通異常は、大腸のがんに関する注意信号です。もちろん、下痢や便秘も、一般的な症状です。しかし、通常の下痢止めや便秘薬が効かない、もしくは、下痢や便秘を繰り返す、といった症状の場合には、やはり、注意が必要です。
がんの初期症状3 進行する貧血……だるさ・息切れ・めまいなど
何となくからだがだるい、息切れがする、めまい・ふらつきがある、といった症状は、通常の肉体疲労や、がん以外の疾患でも見られる症状です。貧血の症状としても多いです。特に女性の場合は、多かれ少なかれ、貧血があることがほとんどなので、一回だけの血液検査や健康診断の結果だけで判断することはできません。重要なのは、進行する貧血です。例えば生活習慣病でかかっている医療機関の3カ月ごとの血液検査で、ヘモグロビン値が、13g/dlから、10g/dlに下がるなど、7~8割以上の低下が見られる場合は要注意。
出血の原因は、消化器系(胃がんや大腸がん)のこともあれば、泌尿器系(腎がんや膀胱がん)、婦人科系(子宮がんや卵巣がん)のこともあります。
進行する貧血は、自覚症状のみではわかりづらいので、医療機関での血液検査が必要です。もし、貧血かな?と思っても自己判断せず、やはり採血して調べておくのがよいでしょう。
がんの可能性をなんとなく感じたら、健康診断・人間ドックを
最後に紹介するのは少し非科学的な内容になってしまうのですが、虫の知らせを大切にしている医師も多いと思います。「何となく気になる……」というケースで、調べてみたら早期のがんが見つかったというケースは、医師の多くが経験していることではないかと思います。これは患者さんも同じ。今回、ご説明したような症状に加え、ちょっと、心配だなぁと思われたときには、会社や自治体の健康診断をきちんと受ける、また、場合によっては、人間ドックを受けてみるといった行動を起こすことも大切です。
自己判断での心配しすぎもよくありませんが、何か気になることがあれば、まずは、お近くの内科の先生の診察をお受けになってみてくださいね。
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