痛み・疼痛/麻酔の種類

癌、手術、慢性痛に使う医療用麻薬の効果と副作用

医療用麻薬を使うと、依存症や中毒になるのではないか? 痛み止めを使うより、我慢したほうが体に良いのではないか?というのは迷信です。癌や手術などの強い痛みを我慢することは、かえって体に負担をかけ、痛みを増強したり合併症を増やします。医療用麻薬を使うことで、体を痛みストレスから守り、心と体の健全化に役立ちます。今回は医療用麻薬の効果と副作用をわかりやすく説明します。

富永 喜代

執筆者:富永 喜代

医師 / 痛みの治療・麻酔ガイド

痛みを我慢しない

手術やがんの痛みを我慢しない

手術やガンの痛みを我慢せず、医療用麻薬を使用することで、合併症を減少できます

痛みを表現するのは恥、人に弱みを見せず我慢することが美徳とする日本文化の影響もあり、日本人はとても痛みに我慢強いです。しかし、手術後の痛みや癌の痛みを「痛い!」と訴えることは、弱音を吐くことでもないし恥ずかしいことでもありません。医学的には痛みを我慢することは痛みを慢性化し、しかも痛みも増強するので、体にとって非常に悪いことなのです。そこで今回は、手術や癌などの強い痛みを和らげ体を守る有効な治療薬、医療用に使う麻薬のお話をします。医療用麻薬には、モルヒネ、フェンタニル、オキシコドンなどが含まれます。

痛みを我慢せず、積極的に医療用麻薬を上手に使うことで痛みの重症化を防ぎ、手術の合併症を減少し、癌の痛みを緩和しましょう。

医療用麻薬を使う場面

副作用と最大効果が得られるよう医療用麻薬を使い分けます

副作用を減らし、最大効果が得られるよう、強弱のある医療用麻薬は使い分けられています

医療用麻薬は、大きく3つの場面で使われます。
  • 手術中や術後の痛みをコントロールして、手術合併症を減少する
  • 癌の痛みを和らげ、患者さまの生活と尊厳を守る
  • 普通の痛み止めが効かない強い慢性痛の痛みを緩和する

モルヒネなどの医療用麻薬が使用されるのは、いずれも強い痛みを伴う場合です。医療用麻薬を適宜使わないと、どうなるでしょうか? 手術ストレスで血圧が上がったり、術後痛から身動きが取れず肺炎や肺梗塞を引き起こす可能性があります。また、ガンの激烈な痛みは日常生活を奪い去り、人格にも影響を及ぼします。慢性痛から食欲不振、うつ状態になることもしばしば。「痛み」は心と体の大きなストレスであり、我慢しても百害あって一利なし。痛みは放っておくと治療が困難になるので、早めに診断して適切な治療をすることが重要なのです。

医療用麻薬の作用

一般的な痛み止めは、実際に炎症が起こっている部位に作用して、痛み物質の産生を抑えることで痛みを和らげます。一方医療用麻薬は、痛みの伝達を指令する脳や脊髄神経に作用して痛みを抑えます。

医療用麻薬がどのように脳から脊髄、末梢神経へ痛みを抑制するかを説明しましょう。

1. 大脳皮質の痛み情報伝達を抑制
2. 中脳と延髄の痛み抑制系を増強
3. 脊髄から末梢神経へ痛みを伝えにくくする
4. 末梢神経の痛みの感知を鈍くして、痛み情報を発信しにくくする

医療用麻薬は中枢神経から末梢神経まで幅広く作用し、痛みの神経伝達を抑制し、神経の興奮を抑えます。

医療用麻薬の効果と副作用

医療用麻薬の副作用

医療用麻薬の副作用には、嘔吐、便秘、皮膚のかゆみなどがあります

医療用麻薬の効果には、鎮痛、鎮静、咳止め、多幸感などがあります。そして副作用には、便秘、嘔吐・吐き気、眠気、呼吸抑制、皮膚のかゆみ、排尿困難、身体的依存などがあります。その鎮痛効果の強さや副作用は、医療用麻薬の種類によって決まっています。医療用麻薬はその副作用を最小にして、最大効果を得ることが重要。効果と副作用を判定するため、患者と医師との綿密なコミュニケーションが医療用麻薬治療では欠かせません。

副作用が出現したときには、便秘には下剤を、そして吐き気や嘔吐には、吐き気止めを併用します。副作用が現れたときには、医師と相談しながら適切に対処し、痛みの治療を継続することが大切です。

医療用麻薬で依存症や中毒になるの?

持続的に強い痛みがある患者様は、医療用麻薬にも中毒になりにくいと考えられています。なぜなら、手術後の痛みや癌の強い痛みがある方は、脳内がストレス不快情報で過剰興奮状態にあります。この興奮した脳や中枢神経は、医療用麻薬を使用することで不快状態が改善し、脳内のバランスが調整されます。ところが、もともとバランスが取れている正常な脳を持つ痛みのない人は、医療用麻薬を体内に摂取することで快楽バランスが強化され、中毒になると考えられています。
麻薬と中毒、依存症の原理

医療用麻薬は使っても、中毒や依存症にはなりません



医療用麻薬を痛み止めとして使うと、余命が短くなる?

痛みを我慢せず医師に相談しよう

痛みを我慢せず、医師や看護師に率直に現状を話しましょう

医療用麻薬を使っても、余命は短くなりません。1996年~1997年の651名の末期癌患者を対象としたアメリカ合衆国の研究では、医療用麻薬であるモルヒネの高い安全性と患者の生存期間に影響がないことが報告されています (参考文献) 。癌の強い痛みを和らげるため、ホスピスでは高用量モルヒネが飲み薬として使われます。もちろん癌患者の余命に影響を与えず、癌終末期痛みコントロールに大きな役割を果たしています。

医師や看護師に痛みを聞かれて、本当は痛いけど痛み止めを使いたくないから「痛くない」と答えたり、勧められても痛み止めを拒否する患者様がいます。どうもその根柢には痛み止めは体に悪い、麻薬は中毒になるのでは?という恐怖、痛みは体にとって良いもので我慢することが普通、という迷信があるようです。

痛みを我慢してはいけません。痛みを我慢することで返って体にストレスを与え、交感神経の興奮から血流低下をきたし、痛み物質が蓄積、その情報が脳に伝わり新たな痛みを引き起こします。このように痛みは痛みを呼び、痛みの悪循環を形成して様々な合併症や副作用を引き起こします。痛みがつらいときには医師や看護師に率直に話し、強い痛みには医療用麻薬を上手に使いましょう。痛みをしっかりと緩和することで不安が解消し、体と心のバランスが取れるのです。

参考文献
High dose morphine use in the hospital setting.A database survey of patient characteristics and effect on life expectancy. Bercovitch M, Waller A, Adunsky A. Cancer/86(5)871-877/1999
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