小説や詩は独り言ではなく、作者と読者の会話であり、(中略)他のすべての人を締め出す極めて私的な(中略)「相互厭人的」な会話なのです。
わたしはどうして本が好きなのか。人付き合いは苦手だけれど、本とは「相互厭人的」な会話ができるというのが大きいんですよね、たぶん。本があれば生きていけます、という感じの日々を綴っていきたいと思っています。
2011年、最初に読んだ本
とある里親募集になんとなく縁を感じ、昨年末、仔猫の姉妹を家に迎えた。以来、猫にかまけている。毎年恒例だった旅行もとりやめ、猫正月。一緒に遊んで解説で紹介されている「文学裁判」のエピソードも強烈。
ヨシフ・ブロツキイの『私人』。1987年にノーベル文学賞を受賞したときの講演をまとめたものだ。解説を含めて62ページの薄い本が付箋だらけになった。読書や芸術にまつわる名言がいっぱい。冒頭に引用したくだりも好きだけれど、以下も素晴らしい。
全人類の幸福の熱烈な擁護者や大衆の支配者たちが小さなゼロを操ってやろうとたくらんでいるとき、芸術はそのゼロたちの中に「ピリオド、ピリオド、コンマ、マイナス」と記号を書き込んで、ゼロの一つ一つを、常に魅力的ではないにしても、ともかく人間らしい顔に変えてしまうのです。
〈全人類の幸福の熱烈な擁護者は大衆の支配者たち〉というのは、註によれば、〈全体主義のイデオローグや、マルクス主義者、共産主義者のことであろう〉とのこと。ブロツキイは旧ソ連で、詩人であるというだけで、〈定職につかない有害な「徒食者」〉として逮捕され、流刑となった。その事実を知っていればなおさら重みを感じるのだけれど、知らなくても、いいなぁと思う。
■DATA
タイトル:『私人』著者:ヨシフ・ブロツキイ
翻訳:沼野充義
出版社:群像社
価格:840円(税込)