マッターホルンと麓の村、ツェルマット
朝焼けのマッターホルン。山上湖、スティゼーにて
ツェルマットに向かうバスや登山電車の窓からは、マッターホルンはなかなかその姿を現しません。それだけに、ツェルマットに着いて初めてマッターホルンを見た時の感激はひとしお。誰もが「うぁーっ」という声を出した後、しばらくの間その巨大な岩峰を見上げたままでいます。
マッターホルンの周囲には他の山がないため、まわりの空間を独り占めしているかのよう。見る人の心をいつも惹きつけます。日の出から日没まで、刻々と移り変わる光線とともに、荒々しく切り立った岩肌の色も変わる。天候の変化により、パイプをふかしているかのように山肌から雲が吹き出し、流れていきます。マッターホルンは、生きているかのように、さまざまな表情を見せてくれるのです。
ツェルマットの駅前広場から、谷奥に向かってメインストリートが続きます。村の中はガソリン車乗り入れ禁止ため、行き交うのは電気自動車と馬車のみ。静かできれいな空気がいつも保たれています。
ツェルマットの村とマッターホルン
メインストリートは、端までのんびり歩いても15分ほど。駅を背に左に折れ、ツェルマットの村を流れる川の付近まで来たら、再びマッターホルンを見上げてみましょう。この川にかかる橋からの眺めは特に美しく、絶好の撮影スポットになっています。
ツェルマットへのアクセス
ツェルマットは、人気の氷河特急も発着する
同じく国際空港があるジュネーブからの場合、やはりフィスプで乗り換えて約3時間45分。ミラノからは、ミラノ中央駅から国際列車を利用。ブリークの駅で乗り換えて、約3時間30分の列車の旅です。
ツェルマットは車乗り入れ禁止のため、バスや車で来る人は5キロ手前のテーシュの村で電車に乗り換えることになります。テーシュには大駐車場があり、スーツケースなど大きな荷物を、荷物運搬用のカートに乗せたまま電車に運び込むことができます。
ツェルマットの展望台
ゴルナグラート展望台に向かう登山電車とマッターホルン
>ツェルマットのパノラマ地図
ツェルマットの展望台1 ゴルナーグラート
ゴルナグラート展望台には、レストランと山岳ホテルがある
ゴルナグラートは、ツェルマットの中でも人気随一の展望台です。ツェルマットを出発した登山電車は、すぐに森林限界の上に出て、視界が開けます。ますます大きく見えるマッターホルンに、皆カメラを取り出し、シャッター音を響かせます。
ツェルマットからは、約35分でゴルナグラート展望台に到着。マッターホルンをはじめ、スイス最高峰モンテ・ローザ、リスカム、ブライトホルンなど、4000mを越える名峰がずらりと肩を並べています。そして眼下には、全長14kmのゴルナー氷河の雄大な姿が見事です。なお、ツェルマットの周囲を取り囲む4000メートル級の山は全部で38座を数えます。
もうずいぶん昔になりますが、私がはじめてゴルナグラート展望台に上がった時の「衝撃」を今でも鮮明に思い出します。ツェルマットに戻る予定の時間が来てもなかなかその場を去りがたく、結局ツェもルマットに戻ったのは最終の登山電車になってしまいました……。
ツェルマットの展望台2 スネガとロートホルン
ロートホルン展望台に上がるロープウェイ。マッターホルンの姿が美しい
最も美しいマッターホルンを拝めると言われているのが、スネガの展望台です。ツェルマットから地下を走るケーブルカーでわずか3分。ゴルナグラートと比べると、団体で訪れる人も少なく、静かで落ち着いた時を過ごすことができます。
ここではぜひ、駅のレストランで一休みしましょう。天気が良い日は、外のテラス席がおすすめ。マッターホルンの北壁と東壁の真ん中に、美しい稜線が空に向かって伸びあがる姿が印象的です。
スネガの展望台からさらにゴンドラとロープウェイを乗り継いで、ロートホルン展望台へ上がることができます。マッターホルンもさらにその迫力を増し、眼下にはフィンデルン氷河の壮大な眺めが広がります。
注1)ロートホルンという地名はスイスにいくつかあり、ツェルマットの他にブリエンツなどにもあります。
注2)スネガ展望台は「スネガ・パラダイス」、ロートホルン展望台は「ロートホルン・パラダイス」という名称が付けられています。
ツェルマットの展望台3 マッターホルン・グレッシャー・パラダイス
マッターホルン・グレッシャー・パラダイスは、ヨーロッパで最高地点の展望台
標高3883メートル。富士山(3776m)よりも高い地点にあるのが、マッターホルン・グレッシャーパラダイス。ヨーロッパで最高地点にある展望台です。夏でも雪と氷に囲まれているため、「グレッシャー・パラダイス」の名称が付けられています。
マッターホルン・グレッシャー・パラダイスの展望台へは、麓のツェルマットからゴンドラとロープウェイを利用して上ります。
展望台からの眺めは、まさに圧巻! 4000mの高峰が、ほぼ目線と同じ高さに広がります。ヨーロッパ最高峰、モンブランにも手が届きそう。夏はここから登山家たちがブライトホルンの山頂を目指し、冬はスキーヤーがイタリアのチェルビニアの村まで滑り下りていきます。
ヨーロッパ最高地点にある山頂駅のレストランでは最新の太陽熱発電や汚水浄化システムを導入し、環境への負荷を最小限に抑えるための様々な配慮がされています。高山病の予防のため、展望台では大きく腹式呼吸をしながら、なるべくゆっくり動きましょう。
注3)マッターホルン・グレッシャー・パラダイスは、クライン・マッターホルン(ドイツ語で「小さなマッターホルン」の意味)とも呼ばれています。
ハイキングと山上湖
逆さマッターホルンを映す山上湖、グリンジゼー
「あまり長い距離を歩くのは自信がない」という人は、登山電車やゴンドラの途中駅から一区間だけ歩くことができます。例年残雪が消える6月中旬ころからが、色とりどりの高山植物が顔を出す絶好のハイキングシーズン。
疲れてきたら、山のレストランで一休み。マッターホルンを見上げながら、冷たいビールで乾いた喉を潤しましょう。ランチには、暖かいスープにパスタがおすすめ。ツェルマットのスーパーマーケットで、サンドイッチを買って持っていくのも良いでしょう。
ツェルマットでのハイキングのもうひとつの楽しみは、コースの途中にある山上湖からの眺め。天気の良い日は、湖面に映るマッターホルンがハイカーの目を楽しませてくれます。
マッターホルンを逆さに移す山上湖では、リッフェルゼーが特に有名ですが、ステリゼーやグリンジーゼーなど、他にもハイキングの途中に寄ってみたい素敵な湖がいくつもあります。
注4)山上湖の名前の最後に付く「ゼー」は、ドイツ語で「湖」の意味。
ツェルマットではこんな過ごし方も!
スキーやハイキング以外にも楽しみ方いろいろ
ツェルマットでは観光やハイキングだけではなく、人とは違ったこんなエキサイティングな過ごし方もあります。
■峡谷めぐり
ゴンドラの中間駅、フーリとツェルマットの間にあるのがゴルナー峡谷。氷河から流れ出た水が岩の裂け目を作り、遊歩道を歩きながら自然が作り出したスペクタクルを楽しむことができます。
■パラグライダー
ツェルマットの展望台や中間駅などから大空を飛びながらマッターホルンを眺めます。インストラクターと一緒に飛ぶので未経験者でも大丈夫。
■ヘリコプター遊覧
マッターホルンを見上げるのではなく、空から見下ろすのがヘリコプター遊覧。ツェルマットに本拠を置くエアーツェルマット社による人気のプログラムです。
■マッターホルン登山/登山熟練者限定
地元の山岳ガイドと共に、マッターホルンの頂上を目指します。前夜はヘルンリ小屋に泊まって未明に出発。標高差1200mの岩稜往復を8~10時間でこなす体力と技術が必要です。通常マッターホルンの前に、登山客の技量を見るためのテスト登山が行われます。
注:山岳ガイド無しの登頂は事故に繋がります。必ずガイドを付けましょう。
マッターホルンの朝焼け
朝焼けのマッターホルン
日の出前に起床、顔を洗ってベランダやホテルの外に出てみましょう。少しずつ空が白くなり、おぼろげだった山の形がはっきりしてきた頃、一筋の光がマッターホルンの山頂を照らす。そして少しづつその光が山全体に広がり、赤みを増していきます。
朝焼けはその時の気象条件により、紫やピンクの色味がかかることもあります。この自然が織りなすショーは、時間にしてほんの15分くらい。タイミングを逃さないよう、カメラの準備も早めにしておきましょう。
日の出の時刻は、夏場で早朝5時半頃から6時半頃。9月になると7時近くが目安。ツェルマットでは観光客はみんな早寝早起きになるようです。でも地元の人にマッターホルンの朝焼けのことを聞いても、よくわからないかもしれません。「その時間はいつも寝ているよ」などと言われてしまうことも……。
ゴルナグラートやロートホルンなど山の展望台で朝焼けを見るマッターホルンのご来光ツアーもあります。これは登山電車の会社が出しているツアーで、現地で参加できます。まだ暗い早朝にツェルマットを出発。山頂でマッターホルンの朝焼けを見た後、レストランで朝食。きっと充実した一日のスタートとなることでしょう。
ツェルマットの山岳ホテル
ゴルナグラートにある山岳ホテルの標高は3100m
中でも3100クルムホテル・ゴルナグラートやリッフェルハウス1853は、日本の旅行者にも大人気。因みにホテル名の中にある4桁の数字はホテルの標高です。シュヴァルツゼーにある山岳ホテルも、マッターホルンが目の前に迫る絶好の場所に建っています。
ツェルマットでのスキー、スノーボード
冬でも天気が良い日は、日光浴ができるほど暖かくなることも
冬場のツェルマットは、スキーヤーやスノーボーダーの天国になります。毎年11月から翌年の4月までとシーズンが長いのも特徴です。
ツェルマットからさらに足を伸ばし、スキーやスノーボードを履いたまま、イタリア側へ滑り下りることもできます。マッターホルン・グレッシャー・パラダイスの展望台から出発。国境を越えてイタリアに入った後、よく整備されたコースがチェルビニアの村まで延々と続きます。チェルビニアに着いたら一休み。パスタのランチの後は、お土産店をのぞいてみてはいかがでしょうか?
スキーやボードの中級者以上なら、誰でもチェルビニアまで滑り下りることができますが、天候が急に変わることもあります。専門のガイドと一緒に滑りましょう。その場合は、パスポートもお忘れなく! スキー場の国境地点ではパスポート検査はありませんが、悪天候になってリフトが止まった場合、陸路迂回してツェルマットに戻ることになります。
ツェルマット、雨の日の過ごし方
温泉リゾート、ロイカーバート 画像提供 スイス政府観光局
さて最後に、天気が悪い日の過ごし方を! 山の天気は変わりやすいので、朝雨が降っていても、午後からカラリと晴れることなど珍しくありません。泊まっているホテルのオーナーに「今日の天気はどう?」などと尋ねてみましょう。長年の経験で良いアドバイスをもらえるかもしれません。
麓のツェルマットでは雨が降っていても、展望台に上がると太陽が燦々と輝いていることもあります。雲が低い場合は、それを突き抜けてしまうわけです。雲海の所々から顔を出す山の眺めも壮観。自分たちだけに素晴らしい景観が用意されたかのようです。ホテルの客室にテレビがあれば、展望台の眺めをリアルタイムで映し出すチャンネルに合わせましょう。上は晴れている、と確認できれば、さっそく支度を整えて出発です。
「展望台も雨か雪!」という日は、マッターホルン博物館を訪れてみましょう。イギリスの登山家、ウィンパーによるマッターホルン初登頂に関する記録など、山に関する資料や村の歴史などが幅広く展示されています。
ツェルマットから列車とバスを乗り継いで、温泉地、ロイカーバートに足を伸ばすことも出来ます。また、ミラノまでブリークで列車を乗り換えて片道約4時間。朝早めに出発すれば、日帰りミラノ観光も可能です。
<関連サイト>
- スイス政府観光局公式ホームページ……ツェルマットについてさらに詳しく紹介。