フライパンやお鍋の中をかき回す行為は、人をほんのりと幸せにします。 じゅーじゅーと音を立てて、キッチンに香ばしい匂いが立ち込めているとき。 ふたを取ればふわりと湯気が立ち上り、 程よい柔らかさに煮えた野菜やお肉を「どうかな?」 とつっつくとき。 心の中にじんわりと染み込むように、満ち足りた気分が広がっていきます。 「中の様子を見ながら、程よく食材を混ぜること」は、 料理をする中でも、一番お楽しみの部分ではないでしょうか。 小学生だったら一番やりたい魅惑の部分です。 まあ、小学生の場合、むやみやたらとつつきまくってしまい、 料理をダメにしてしまうことの方が多いのですが。

混ぜる
ささやかな幸せ時間。


さて、お鍋やフライパンの中の食材を操作するのに、よく活躍してくれる 働き者の道具といったら、ヘラです。 これがないことには料理が始まりません。 しかし、ヘラは思いのほか、重要視されていないように思います。 どうも、気持ちは鍋に行ってしまうのです。 ル・クルーゼとか、ストウブとか、クリステルとか、ビタクラフトとか。 有名メーカーの美しい鍋たちがキラキラと目の前をちらつくと、 ついついぽーっと見とれてしまい、 いい鍋をゲットすることが、料理上達の決め手と錯覚してしまいます。 もちろん、鍋はとても大事なアイテムなんですが。 でも、愛する鍋の相方として、 ヘラにももっと気持ちを向けてあげてもいいのではないでしょうか。

使いやすいヘラを探して

ヘラ
使い始めて半年くらいの様子
ヘラごとき、と思われるかもしれませんが、 今のヘラにたどり着くまで、それは長い旅でした。 最初に買ったのは竹製のヘラ。たぶんスーパーか100円ショップ的な場所で 購入。必要に迫られて買ったヘラでした。 その次は、とあるインテリアショップにて。 しっかりとした、なかなかいいヘラでしたが、少し重過ぎることと厚みがやや気になっていました。 そんなときに、東欧製のハンドメイドの木ベラを発見! 柄の部分に焼印で押したような少々野暮ったい民芸調の模様が付いていて、 それが妙に心惹かれるものでした。やっといいもの見つけた、という気分。見た目につられて、 さくっと購入してしまいましたが、使ってほどなく、 先のほうがもろもろとしてきました。先端のすくう部分がよれよれとささくれ立ってきたのです。 先に向かって薄く削られていたので、使い勝手自体は良かったのですが、 あっという間にくたびれてしまったのが残念でした。

そんな風にうだうだしていたとき、奈良の物産展がありました。 お茶とか、麺とか、鹿のかたちのお菓子とか、つい食べ物ばかりを物色していたのですが、 その片隅に、ぽろりとこのヘラが置いてありました。 奈良に住む、七十を過ぎたおじいちゃんがひとつひとつ手作りで作っているとのこと。ほぉ。 「おじいちゃんの手作り」というだけでも、十分ありがたい気持ちになっていましたが、 手に取ってみたら、なんとも手触りがよく、離せなくなっていました。 丁寧に手書きされたものをコピーした、説明書きと一緒に袋に入れてもらいました。


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