抗がん剤治療の主な副作用
抗がん剤の副作用で多い脱毛。薬が効いている一つの証拠でもあり、治療が終われば元に戻ります
抗がん剤はDNAの増殖を抑えたり、細胞の増殖を阻害したり、体内の免疫機能を強化したりといった方法で、がん細胞を死滅させるために用いられます。基本的に抗がん剤は飲み薬や点滴で血液中に送り込まれます。血液に乗って全身に回ることで効果を現しますが、逆に言えば正常な細胞もそれだけ影響を受けるということです。
正常な細胞が受ける影響は、抗がん剤の種類によって異なります。多くの抗がん剤に見られる代表的な副作用は、脱毛、汎血球減少(はんけっきゅうげんしょう)、吐き気・嘔吐の3つです。今回はこれらの代表的な抗がん剤治療の副作用と対策法について解説します。
脱毛の原因と対策
がん細胞には増殖スピードが速いという特徴があります。抗がん剤はがん細胞をこの「増殖スピード」で見分けるので、正常な細胞でも増殖スピードが比較的速い細胞は抗がん剤の影響を受けやすくなります。その代表が毛根と、後述する骨髄です。
毛根細胞が抗がん剤によって障害を受けると脱毛が始まります。近年、乳がんや卵巣がんで広く用いられるタキサン系の抗がん剤では、特に脱毛の副作用が顕著です。
脱毛の副作用を抑えるのは残念ながら現在の技術では難しいので、患者さんには事前にこの情報をよく説明して理解していただき、気になる人は脱毛が始まった場合に備え、ウィッグやバンダナなどをあらかじめ準備するようにアドバイスします。抗がん剤の影響で抜けた髪は、治療終了後には再度生えてきます。この髪の再生を知っていると、副作用の受け止め方はずいぶん変わってくるようです。
汎血球減少(はんけっきゅうげんしょう)の原因と対策
骨髄抑制も、多くの抗がん剤で見られる副作用。薬剤の使用で上手につきあいましょう
「汎血球」は耳慣れない言葉だと思いますが、抗がん剤治療の際にはよく聞くようになる言葉です。血液中の血球は、主に赤血球、白血球、血小板の3種類に分けられますが、汎血球はこれら全ての血球の総称です。白血球はリンパ球や好中球など、さらに細かい分類に分かれます。
赤血球、白血球、血小板は、「骨髄幹細胞」という一種類の細胞が骨髄の中で3種類に分かれてできます。
抗がん剤は増殖スピードが速い細胞に副作用が出やすいと書きましたが、骨髄細胞もその代表的な細胞。骨髄幹細胞が障害されると、赤血球、白血球、血小板の3つが作られなくなる可能性があります。3つとも作られなくなるのが「汎血球減少症」。薬剤によっては、白血球のみ、血小板のみが下がるというものもあります。
赤血球が下がると、動悸・息切れ・全身倦怠感などの貧血症状が見られます。白血球が下がると、体の外にいる最近やウイルスに負けてしまうので、無菌室に入らなくてはならないケースも出てきます。血小板が下がると、血液が止まりにくくなり出血のリスクもあがります。
対策としては、骨髄幹細胞に血球の増産を働きかける薬剤(G-CSF:顆粒球コロニー刺激因子)を投与する方法があります。赤血球や血小板の減少が著明で改善しない場合には、輸血も有効です。
吐き気・嘔吐の原因と対策
吐き気や嘔吐もよくある副作用。「セロトニン受容体拮抗薬」という薬剤でかなり軽減することができます
抗がん剤による吐き気や嘔吐の副作用は、テレビドラマなどでも象徴的なシーンとして描かれることが多いようで、多くの患者さんが心配される症状です。
原因は、抗がん剤が脳の嘔吐中枢を刺激するため。長期にわたって抗がん剤治療をおこなっている場合は、消化管粘膜が障害を受けてしまうことで食欲不振や嘔吐が起こるケースもあります。
対策法としては以前は胃薬の服用くらいしかなかったのですが、20年ほど前からは嘔気止めとして「セロトニン受容体拮抗薬」が用いられています。この薬により、吐き気・嘔吐の副作用はかなり軽減できるようになってきました。
抗がん剤の投与方法による工夫
近年では、各副作用の症状に個別に対処する方法以外に、抗がん剤の投与方法を工夫することで副作用を軽減する方法も取られています。例えば、薬剤の摂取量を分ける方法。以前は1回で投与していた薬を何回かに分けて投与することで副作用を減らしながら、同等の治療効果が得られるといった臨床試験も行われています。最近になって外来化学療法が広く行われるようになったのは、これら副作用対策が充実してきたことも重要な要因です。
抗がん剤の副作用を過剰に心配していると、効果的な治療を受けられないこともあります。十分に対策しながら適切な治療を適切なタイミングで進めていくことが重要なのです。