抗がん剤/抗がん剤治療の目的・効果・費用

主な抗がん剤の種類

抗がん剤と一口に言っても、効き方や使用法は様々。20年ほど前から新しい抗がん剤も多数開発されています。代表的な抗がん剤を作用別に分類し整理しました。

狭間 研至

執筆者:狭間 研至

医師 / 癌ガイド

なぜ、何種類も抗がん剤を使うのか?

「今度の抗がん剤治療は、こういったやり方で行います」
肺がんの手術がおわった、Aさん(55歳 男性)。手術後の病理検査の結果も出て、これからは抗がん剤の治療を行うことになりました。

診察室で主治医から示された説明書には、週に1回、抗がん剤の点滴治療を外来通院で行いながら、毎日飲み薬でも抗がん剤を服用するというものでした。

抗がん剤治療では、臓器や進行度によって違いはありますが、このように複数の抗がん剤を使用する場合があります。
それは、抗がん剤と一口にいっても様々な効き方があり、複数の薬剤ヲ使用することで、副作用を抑え、より高い効果を期待できることが明らかになってきたからです。

今回は、抗がん剤の種類とその作用について説明します。
 

3種類に分けられる抗がん剤の作用

抗がん剤といっても、ひとくくりにはできないほど色々な種類があります。抗がん剤の作用のメカニズムや目的から3つに分類してご説明します。

抗がん剤と言っても、種類は様々。作用のメカニズムや目的から3つに分類してご説明します

一口に抗がん剤と言っても、種類は様々。抗がん剤治療と言われても、普通の薬と違いはあるのか、副作用は大丈夫か、気になることが多いと思います。

簡単に言うと、抗がん剤はがん細胞を死滅させる薬。細胞を死滅させるのも色々なやり方がありますが、作用のメカニズムや目的から大きく3つに分類できます。

  • DNAが増えないよう細胞に直接作用するタイプ
  • がん細胞の増殖に必要な色々な酵素やレセプターに働きかけるタイプ
  • がん細胞への免疫による攻撃を強化するタイプ

それぞれの抗がん剤の特徴について、以下で詳しく解説します。
 

DNAの増殖を抑える抗がん剤

がん細胞も含め、全ての細胞は「DNA(デオキシリボ核酸)」を持っています。これはそれぞれの細胞の情報を持った遺伝子のことで、細胞が増殖する上で欠かせないもの。このDNAが増えるのを様々な方法で阻害することで、がんの情報を持った細胞の増殖を押さえます。このタイプの代表的な抗がん剤は以下の通りです。

■抗生物質
がん細胞の細胞膜を破壊したり、DNAの合成を阻害したりする。マイトマイシンC、ブレオマイシンなど

■アルキル化剤
DNAを変形させて複製不能にする。シクロフォスファミド、ブスルファンなど

■プラチナ(白金)製剤
DNAにくっついて合成を阻害する。シスプラチン、カルボプラチンなど

■植物アルカロイド
複製されたDNAが新しい細胞に行くのを阻害する。イリノテカン、ドセタキセル、パクリタキセル、ビノレルビンなど

■代謝拮抗薬
DNAの合成に必要な酵素を阻害する。テガフール系、メトトレキサート、ゲムシタビンなど

がん細胞の増殖を阻害する抗がん剤

がん細胞の増殖には、酵素やレセプター(細胞内に情報を伝えるための受容体)が必要。これらの働きを阻害することでも、がん細胞の増殖を抑えることができます。このタイプの代表的な抗がん剤は以下の通りです。

■ホルモン剤
乳がんや前立腺がんなど、性ホルモンにより増大する可能性があるがんには、これらのホルモンの作用を阻害が有効。タモキシフェン、リュープロレリン、アナストロゾールなど

分子標的薬
がん細胞表面のタンパク質やがん細胞増殖に必要な酵素を特異的に攻撃することで、抗がん作用を発揮する。ゲフィチニブ、イマチニブ、トラスツズマブなど

がん細胞への免疫による攻撃を強化する薬剤

がん細胞は本来は自分の免疫細胞で異物として攻撃される対象。免疫系の攻撃の手が緩んだときにがん細胞が残されてしまい、がんの発症につながると考えられます。このような我々の体がもつ免疫の力を強める薬剤も抗がん剤です。このタイプの代表的な抗がん剤は以下の通り。

インターフェロン
細胞がウイルスに感染した時に分泌される物質で、免疫機能の増強や、がん細胞への攻撃を行う。インターフェロンα、β、γなど

免疫賦活剤(めんえきふかつざい)
人体がもつがんへの攻撃力を高める。レンチナン、ウベニメクス、インターロイキンなど

症例によって変わる抗がん剤の使用法

海外で認められた抗がん剤を、日本で健康保険で使用するためには、色々な審査が必要です。このような医薬品の申請から認可までの時間を「ドラッグラグ」と言いますが、

海外で認められた抗がん剤を認可するまでの「ドラッグラグ」。残念ながら、日本では欧米諸国より長い時間がかかってしまいます

以上のように、抗がん剤にはたくさんの種類があり適応となる病気も様々。患者さんに適切な抗がん剤の組み合わせや投与方法、投与量を決める上では、基礎的実験のデータや臨床試験のデータをもとに詳細分析が行われます。

たとえ同じ部位のがんであっても、同じ抗がん剤が処方されるわけではないのです。

また、これらの薬の多くは海外の製薬メーカーが開発するため、最初の臨床試験は海外で行われます。欧米で医薬品として認可を受けても、日本での許可がなければ保険診療として使用することができません。安全性を確認し、日本人の場合の適量を決定し、日本の厚生労働省から医薬品としての認可を受ける必要があります。申請から認可までに非常に長い時間がかかってしまうことを近年では「ドラッグラグ」と読んで、問題視されています。

いずれにしても、技術の進歩に伴って位置づけが変わりつつある抗がん剤治療。がん治療のさらなる成績向上が期待されます。
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