年内にも登場することになった糖尿病新薬。その役割に期待です
新しい作用機序の経口薬が、10年ぶりの糖尿病新薬として年内にも発売されることになりました。多忙な医師は私たち患者一人ひとりにこの薬がどのように血糖値を下げるかをとても説明できないかもしれません。しっかり予習しておきましょう。
お待ち遠さま! 10年ぶりの糖尿病新薬
新薬『ジャヌビア』は今まで全く無かったタイプの糖尿病薬で、「DPP-4(デーピーピー・フォー)阻害薬」と言われるものの一つ。世界で初めて認可された、2型糖尿病の経口薬です。2型糖尿病の高血糖は単一の原因によるものではなく、いろいろな生理学的欠陥から引き起こされます。2型糖尿病が10年、20年という長期間にわたって少しずつ進行する中で、糖尿病薬の役割はさまざまに変化し、その時点での最良の薬が求められることになります。
2型糖尿病の高血糖の要因とそれらに対抗する薬
それでは2型糖尿病の高血糖をもたらす要因を復習しながら、これまでの薬と新薬『ジャヌビア』の役割について、解説しましょう。■インスリン抵抗性
太ってくると内臓脂肪細胞からインスリンの作用を阻害する物質が出てきます。この状態になると、血液中にインスリンがたっぷりあっても高血糖になります。減量が第一ですが、治療薬としてはビグアナイド薬やチアゾリジン薬があります。
■インスリン分泌の低下
日本人のようなアジア人は遺伝的にコーカジアン(白人)に比べてインスリンの分泌能力が低いのです。たいして太っていなくても加齢と共に2型糖尿病になりやすくなります。これは日本人に多い病態。不足するインスリン分泌を促進する薬がSU薬やグリニド薬です。経口薬でも補えなくなるとインスリン治療になります。
■インクレチンの作用減弱
これはあまり知らない人もいるかもしれませんが、インクレチンと言うのは食物の刺激によって小腸から分泌されるホルモンのこと。血糖値が上がりそうな時に、膵臓からのインスリンをたくさん出させる作用があります。インクレチン作用は2型糖尿病の進行と共に衰えるため、インスリン分泌能力低下と相まって常に高血糖状態を引き起こしてしまいがちでした。
『ジャヌビア』はインスリンを分泌するベータ細胞がそれ程減少していない段階の2型の早期に最適な薬で、インクレチンの作用を増しながらベータ細胞の保護も期待できますから、その人の2型糖尿病の進行のコースを良い方向に変える可能性すら考えられます。
■不適切なグルカゴンの放出
グルカゴンとは膵島のアルファ細胞から分泌されるホルモンで、インスリンとは逆に血糖を上げる作用があります。からだはこの2つのホルモンのバランスを取りながら血糖値を一定に保つのです。2型糖尿病になると高血糖になってもこのグルカゴンが放出され続けて、さらなる高血糖になってしまいます。このグルカゴンの放出を抑えるのが上記のインクレチン。『ジャヌビア』が増強するインクレチンは血糖値が高いときにはグルカゴンの放出を抑え、血糖値が80mg/dl以下になるとその作用をストップします。つまり低血糖になるリスクが低いということです。
■小腸からの速いブドウ糖吸収
インスリン不足あるいは作用不足の時に食事で炭水化物がどんどん入ってくれば高血糖になります。炭水化物のブドウ糖への分解を遅くする薬がアルファ-グルコシダーゼ阻害薬ですが、インクレチンは胃腸の働きをゆっくりとすることによって同様の働きをします。
ジャヌビアを始めとするDPP-4阻害薬は以上のような多面的な作用機序で血糖を安定させるインクレチンの働きを強めるのですね。『ジャヌビア(Januvia)』の名は前後に2つの顔を持つローマ神話のヤヌス(Janus)に因むそうです。インクレチンは血糖を下げるインスリンをたくさん出して、血糖を上げるグルカゴンを抑える2つの顔がありますよ。また、インクレチンは血糖が高いときのみ作用して、血糖が80mg/dl以下になるとインスリン分泌刺激効果がなくなります。二重に安全ですね。
新薬『ジャヌビア』のその他の特長
- ジャヌビアは注射薬ではなく経口投与
- 1日1回の服用で、食事に関係なく飲める
- DPP-4阻害薬は血糖が高いときにのみ作用するので危険な低血糖になりにくい
- ジャヌビアはすでに85ヵ国以上で使用されている
- 吐き気などの副作用が少ない
- 体重変化なし
『ジャヌビア』は一般名をシタグリプチンと言い、米国メルク社が開発したもので、日本では万有製薬から発売されます。同じものが小野薬品工業から「グラクティブ」の商品名で併売されます。
最初の見出しに「お待ち遠さま!」と書きましたが、アメリカで『ジャヌビア』がFDA(米食品医薬品局)の承認を得る直前にReuters Primary Researchが調査したところ、インタビューした60人の糖尿病専門医、開業医、内科医のうち、開業医の90%、糖尿病専門医の95%がDPP-4阻害薬を「処方する」と答えたのです。そのせいか、発売後わずか3年で経口薬の売上ではチアゾリジン薬の『アクトス』に次ぐ2位になったそうです。日本の医師もお待ち兼ねなのでしょうね。
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