糖尿病/糖尿病の治療法・病院

人工膵臓に一歩近づきました(2)

世界に先駆けて人工膵臓の開発をリードしているのはアメリカ(ニューヨーク)に本部があるJDRF(若年性糖尿病研究財団)です。欧米の11ヵ所の大学や小児病センターで研究を積み重ねています。

執筆者:河合 勝幸

MiniMed Paradigm  このポンプは小さなリモコンで着衣のまま操作できます

MiniMed Paradigm このポンプは小さなリモコンで着衣のまま操作できます

世界に先駆けて人工膵臓の開発をリードしているのはアメリカ(ニューヨーク)に本部があるJDRF(若年性糖尿病研究財団)です。欧米の11ヵ所の大学や小児病センターで研究を積み重ねています。

特に1型糖尿病の幼児や子供たちが、からだに装着できる小さなポータブル人工膵臓の開発に取り組んでいます。1993年にアメリカで発表されたDCCTという大規模な臨床試験で、1型糖尿病でもヘモグロビンA1C(エーワンシー)を7%に維持したインスリン強化療法をすれば、合併症の発症や進行が抑制できることが証明できたのですが、同時にその代償として危険な低血糖が3倍に、体重増のリスクが2倍になることも分かったのです。

特に小児や思春期の少年少女が危険で、インスリン強化療法を行ってもA1Cが高く、危ない低血糖が60%増加、太ってしまうが2倍のレートになってしまいました。
新しい超速効型インスリンや効果が1日中安定して持続するインスリンの登場、インスリンポンプの進歩などがあってもDCCTの目標A1Cはなかなか達成できないのが実情です。

以前は小児型とか若年性糖尿病と言われた生活習慣とは関係のない糖尿病は、今日では年齢にかかわらず発症することが分かりましたので「1型糖尿病」という分類になりましたが、現実には約50%の1型糖尿病は相変わらず未成年で発症しています。
まだ自立できない年齢での1型糖尿病は、成長期ゆえの食事量の多さや活発な活動量、血糖を上げる成長ホルモンなどの影響で血糖コントロールが難しいのです。

特に重度の低血糖の50%以上は睡眠中に起こるので、1型糖尿病の子どもを持つ親は夜中に何回も起きて血糖値をチェックするという大変な毎日を送らざるを得ません。
今回、ランセット誌に発表された論文は、人工膵臓が就寝中の子どもを55ml/dl以下の危険な低血糖から守る目安がついたというものです。


小さな一歩ですが、大きな希望が!

この研究はJDRFのファンドを得てケンブリッジ大学(英)のDavid Dunger教授らが行ったもので、17人の1型糖尿病の子どもやティーンエージャーを延べ54夜にわたってクローズド・ループ・システム(連続式血糖測定器とインスリンポンプを閉回路に組込んだシステム)につないで夜間の低血糖を防止しようとしたものです。

従来の連続式血糖測定器とインスリンポンプの組合せでは、血糖値の変化がインスリンポンプにフィードバックされることはなく、低血糖になってもインスリンがプログラムされたとおりに注入されていたのです。その結果、重い低血糖になってしまうことは言うまでもありません。

実験では血糖コントロールを70~144mg/dl以内に収めることを目標とし、70mg/dl以下を軽度の低血糖、55mg/dl未満を危険な低血糖としました。

被験者が70mg/dl以下になっていた延べ時間では、このクローズド・ループ・システムと従来型のポンプでは差が出なかったのですが、55mg未満の手当てが必要な低血糖はクローズド・ループ・システムでは1件もなかったのです。
従来型のインスリンポンプを使用したコントロール群では同期間に9件もありました。
重い低血糖を予防しただけでなく、この新システムでは深夜でも80%の時間が目標の血糖範囲に収まっていたのです。従来型のインスリンポンプのみでは35%に過ぎませんでした。

今回使われたコンピュータアルゴリズムが危険なインスリン投与量を指示したことはありませんでしたが、言うまでもなくこのアルゴリズムは完全なものではないので、実際はコンピュータが指示したインスリン量を立ち会いのナースがインスリンポンプに入力して安全を計りました。

ケンブリッジ大学では1型糖尿病のさまざまな状況を設定して人工膵臓のアルゴリズムを研究しています。
たとえば1型の子ども達が夕食にたっぷりした量の食事を取った場合─インスリン量が増えるので深夜の低血糖リスクが高まる─とか、午後遅く、あるいは夜に激しいエクササイズをした場合(当然、低血糖のリスクが大きくなる)などの研究もしています。
成人の1型糖尿病ではアルコールの影響や1型糖尿病女性の妊娠中の血糖コントロールをクローズド・ループ・システムで行う研究も進んでいます。

完成までの道程はまだまだ遠いものですが、医療機器メーカーの努力とコンピュータチップの技術進歩で夢に一歩ずつ近づいているのはうれしいことです。

■関連リンク ─ 主なインスリンポンプ
ACCU-CHEK Spirit (Disetronic Medical Systems)
DANA Diabecare IISG (Sooil Development)
MiniMed Paradigm (Medtronic Diabetes)
OmniPod (Insulet Corp.)
OneTouch Ping (Animas Corp.)
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